柔らかく、開かれて

・作

行き詰まる不倫関係に心身疲労を極めた佐伯 柚(さえき ゆず)。会社の後輩、秋河クンの手指に肩凝りだけではなく、心もほぐされて…

「佐伯さんの肩、鉄板入ってませんか?ごりごりですよ」

私の右肩に、秋河くんの右肘が鈍く沈む。

「入ってないから、鉄板なんて。あー、そー、そこ、ソコ」

「いい感じっすか?」

「んー、いい。やっぱプロだねーあー気持ちいい…」

「や、元プロ、ですから」

秋河くんは、前職の整骨院勤務は三年。トレーニング用品の開発部署に飛び込んできてからは、未だ半年。第一印象は、あどけない顔したボンヤリくん。意外にも、手先の器用さと、コミュニケーション能力の高さ、人の身体を手で診てきた経験からの的確な知識を誇る。頼もしい人脈として上長からの信頼も厚い。

「眼鏡合ってます?佐伯さん」

「あ、鋭い。変えなきゃかも」

「合わないまましてると、余計疲れて、肩凝りに。下手すると頭痛にも繋がりますよ」

「はぁい」

気持ちよさに、眠ってしまいそうになるのを堪えつつ、会議室のソファの肘掛けを右手でグッと掴みなおす。

手に職を持つのは武器だ。秋河くんが整骨院に勤務してきた三年間。私はこの会社で夢中になって働いてきたけれど。私は誰かに何かを施すことなんてできない。ただ、歳を重ねてしまっただけかもしれない、なんて物悲しくなる。的確な施術を受けて身体が楽になるのと比例して。

「合わないまま誤魔化していること、眼鏡以外にも、あるんじゃないですか?」

核心を突かれて、何も言えない。

「触れても、大丈夫ですか?」

誤魔化していること、について?ああ、私の脚にか。

「秋河くんが、イヤじゃなければ」

私の「なければ」を聞いてすぐに、秋河くんの中指は、私の左のふくらはぎに、すうっ、と進む。続いて、人差し指、薬指が。

「強さ、大丈夫ですか?」

「ん。もっと強くていいくらい」

「じゃあ、聞きます。……別れないんですか?大葉部長と。やめないんですか、不倫」

私の喉が鳴る音が響く。

「強く、っていうのは。話の核心を突く力、ではなくて。マッサージの手を、手を強めてという意味です。それに会社ではこういう話は、したくない」

今、私も、強すぎた。

「したくない、です」

沈黙。気まずい。

秋河くんが、ソファに掛けていた背広に腕を通す。

「場所、変えてもいいですか?」

逃げたい。ずっと、そらしてきた。

疲れてますね、佐伯さん、と、私を労う秋河くんに甘えて。乱暴で気持ちよくもない、大葉との情事に疲れた翌日はいつも。こうして秋河くんの健やかな手で、癒されて。

ピントの合わない眼鏡をかけ続ける日々を重ねてきた。変えるのが、変わるのが、怖くて。

「…何もしないなら」

「貴女の凝り、とりますよ、中途半端は嫌なんで」

秋河くんは、背広の内ポケットから、車のキーを取り出して、私に見せる。

「送ります」

送り先。大葉が通う、大葉が週末だけ眠る、私の家に―。

公開日:

感想・レビュー

1件のレビュー

柔らかく、開かれてのレビュー一覧

  • 2ページめからいきなりエロなってびっくりした

    まさか、彼女が官能小説家とは知らなかった😅
    1ページめに友達と飲んでる場面から
    お兄さんが迎えに来て、、、
    いきなり2ページめからエロになったからびっくりした😅
    もちょっと、間に、迎えに来て、一緒にお兄さんの部屋に行ったら、誘惑されて、、、みたいなエピソード挟むと、いきなりエロでびっくりにならないかもよ。
    自作も楽しみにしてます。

    ローラ さん 2020年9月24日

レビューを書く

カテゴリー

月間ランキング

人気のタグ

クリトリス クンニ 愛のあるSEX キス ちょっと強引に 愛撫 我慢できなくて クリ責め 乳首 思わぬ展開 指挿れ 乳首責め イキっぱなし ラブラブ 働く女性 ベッド以外 彼氏 胸きゅん 潮吹き いじわる フェラ 言葉責め 中出し 好きな人 年下クン 年上の男性 OL スリル ちょっと過激に 告白

すべてのタグを見る