初めての奇跡の夜

・作

里香は30歳。セックスはこどもを作るために合意のもと行う営みであるとの信条で、処女のまま敏文と結婚した。だが初夜を迎えて自分が体験していないことが重荷に感じてくる。緊張と不安で硬直し敏文を迎え入れる里香。だが一方の敏文のほうも…。

私は真面目だ。

セックスはあくまでこどもを作るために双方合意のもと男女が行う行為だと確信してやまない。

だから30歳のこの年まで処女だ。

しかしそれが伴侶となる敏文さんと出会った今大きな問題となっている。

所定の手続きを踏んで、結婚し、本日、初夜。

私は新婚旅行先のホテルのベッドで硬直していた。

30歳で処女で、相手に任せきりになるのってこれは非常に迷惑なことなのでは?

はたと思い当たったのだ。

今になって悔いても遅いが、私は男にどう応えていいか皆目見当もつかない。

性知識は教科書通り。

AVは生殖目的のセックスを描写していないから論外。

そう思って触れてこなかった。

そんな自分を今からさらけ出すのだ。

愛しい旦那様の前に。

「里香さん、ここのお風呂広くて気持ちいいね。つい浸かりすぎちゃったよ」

敏文さんがのんびりとした声で寝室にやって来た。

すらりとした長身にバスローブがよく似合っている。

穏やかな笑みを浮かべて敏文さんは私を見た。

私は自分の夫に見惚れていたのに気づいて照れくさくて顔を伏せた。

「さてと、里香さん」

ぎしっと音がして、敏文さんが私の横に腰かけたのがわかる。

「は、はい」

「これからよろしくお願いします」

敏文さんに目を向けると彼は頭を深々と下げていた。

「あ、はい、こちらこそ」

とにかく緊張と不安と硬直感を隠さなければ。

私は手をついて敏文さんに頭を下げた。

彼がクスリと笑った。

「なにかおかしい?」

「いや、今でも信じられないよ。憧れの存在だった里香さんが自分の奥さんになるなんて」

それを言ったら私だって信じられない。

会社の女性人気第1位だった敏文さんがこんな堅物女の夫になってくれているなんて。

「とにかく、末永くよろしくお願いします」

「おねがいします」

私たちは再びお互い頭を下げて、それから笑いあった。

そう、敏文さんは会社でも目を引く存在だった。

きっとたくさんの女の人たちと縁があって経験値だって高いだろう。

それを今夜、私は相手するのか。

いきなりがっかりさせて離婚ってことになったりしないだろうか。

突飛な考えがぐるぐるする。

私は敏文さんの顔が近づいて来ていることにも気づかなかった。

「里香さん」

「はい」

「初めてなんだ。恥ずかしいけれど。嫌わないでね」

「はい?」

私は顔を上げた。

困ったような笑みを浮かべた敏文さんの顔があった。

敏文さんの顔はそのまま近づいてきて、私に優しく口づける。

え、どういうこと。

私が初めてってこと?

それとも行為のこと?

敏文さんが!?

敏文さんみたいなモテの権化なひとが????

私はクエスチョンマークを脳内乱舞させながら敏文さんによってベッドに押し倒されていた。

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