断ることができない性格の私…気軽に始めた「なんでも屋さん」は…危険がいっぱいでした

・作

大学3年生の夏、メルはお金に困っていた。後期の学費に当てるためのお金を推しに貢いでしまったのだ。早急にまとまったお金を作るために、SNSで「なんでも屋」をはじめてみたものの、客の要求は次第にエスカレートしていって…

「足をあと五センチひらいてみて」

「は、はい。これで良いですか?」

「うん…良くなった」

今日の仕事は、ある画家さんの画廊でのモデル。

報酬は1万円。

1件あたり2,000〜3,000円が相場の「なんでも屋」の仕事を募集しはじめたのは数ヶ月前。

それまではコンビニバイトで充分だった推し活費用が、新しくデビューしたアイドルを掛け持ちで推すことになってからというもの、まったくの資金不足におちいった。

すぐ返すつもりで、学費として置いてあった貯金に手を付けて、あっという間に貯金は底をついた。

後期の学費の納入日までに、手っ取り早く現金を獲得しなければと焦った私は「なんでも屋」という仕事を思いついた。

呼びかけはSNSで、口コミで評判が広まり数十件の依頼が定期的に舞い込むようになってきている。

*****

「はい、今日の報酬ね」

絵を描き終えた画家さんは二コリと満足げに1万円を渡した。

お礼を言って、ありがたく受け取る。

「今日は、あと1件くらい頑張ろうかな」

長時間、体を固定していたせいで疲労は感じていたが、学費の納入期限まで一週間を切っている。

「なんでも屋」の報酬のおかげで、あと8万円ほど貯まれば学費が払えるところまで来ていた。

スマホを取り出し、DMを開いた。

DMは相互のフォロワーしか送ることができないようにしているので、ある程度はフィルターがかかっている。

冗談めいた依頼はたまにあっても、困るような依頼は来たことがない。

急ぎの仕事や報酬の高い仕事の依頼をまずは確認していく。

「え…10万?いち、じゅう、ひゃく…や、やっぱり10万だ」

今までにない高額報酬の依頼に驚く。

内容は『2時間服従すること』

依頼者は『高木圭』

「え…圭くん?」

彼は大学の同期で、どちらかというとみんなにヨシヨシ可愛がられる可愛い系の男子。

この前の飲み会で初めて話して意気投合して、相互フォローしたんだった。

飲み会のノリで「イエスマン同盟」なんてふざけたコンビ組んで、頼まれると断れないっていう弱みを笑いにしあった仲だったはずだ。

服従なんて、本気かな?

彼をどれだけ思い出してみても、服従している姿しか想像できない。

きっと冗談だろうと、返信を返した。

「久しぶり!謎のご依頼ありがとう。でも、冗談の依頼は一回までだよ?これでも忙しいんだぞ!」

メッセージの終わりにスマイルマークを付け足した。

すると画面を閉じる前に、入力中の文字があらわれメッセージが届く。

「冗談じゃなくて、まじめな依頼だよ。メルちゃんの「何でも屋」の評判を聞いたんだ。それに学費納入まで残りわずかでしょ?僕なりの助け舟だよん♡」

学費を推しに使っちゃった話も、圭くんにあのとき話したんだっけ?

ここへ来ての助け舟は正直、ありがたかった。

これは飛びついてもバチは当たらないよね?

圭くんを完全に信頼していたこともあり、軽い気持ちでこの依頼を受けることにしてしまったのだった。

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