忘れられない恋の行方は

・作

彼氏もいない、ただひたすら毎日仕事をするだけの日々。そんな毎日を過ごす中、私にはどうしても忘れられない人がいた。それは高校生の時に好きだった1個上の先輩。先輩の卒業後、連絡を取らなくなってからもう7年も経とうとしている。もう2度と会えないと思っていたのに、まさか先輩が私の職場に来るなんて…。

私は桜木花純、現在彼氏はいない。

最後に彼氏が居たのは3年前…だったような気がする。

もう前の恋人と別れてからだいぶ経つため、ハッキリと覚えていない…。

今は家の近くの眼科で事務員として働きながら、1人で代わり映えのない日々を過ごしている。

「花純さん、彼氏作らないんですか?」

「作らないって言うより出会いがないのよ…」

「えー!花純さん綺麗なのに勿体ない!今度誰か紹介しましょうか?」

お昼休憩の時間になり、事務室でお弁当を食べていると、隣に座っていた後輩から声を掛けられた。

彼女は恋バナが好きなようで、いつもそれ関係の話題ばかり振ってくる。

「んー、有難いけど遠慮しておく!ごめんね、食べ終わったから歯磨きに行ってくる!」

私は逃げるようにその場を後にした。

もちろん私だって彼氏が欲しくないわけじゃない。

毎日仕事ばかりじゃなく、恋人とデートしたりしたら楽しいだろう。

それでも私にはどうしても忘れられない人がいた。

私の片思いで終わってしまったけど本当に好きだったのだ。

その人は高校の先輩で、同じ部活に所属していたことから学年の壁を越えて仲が良かった。

しかし先輩とは、卒業してから1度も会っていない。

あんな風に毎日相手のことを考えては楽しくて、胸が苦しくて、その人がいるだけで心が満たされるような恋をする日がまたやって来るのだろうか…。

*****

午後も忙しく受付業務や会計業務に追われていた。

いつも通り患者の明細書を作成していると、ふいにある名前が目に留まった。

(根岸…悠輝…)

まさか…。

信じられない。

好きだった先輩と同姓同名だ…。

いや、たまたま同じ名前の人かもしれない。

私は平常心を装ってその名前を呼ぶ。

「根岸悠輝さーん!」

「はい」

奥の椅子に座っているスーツ姿の男性が腰を上げ、受付の方へと近付いてくる。

ハッキリと顔は見えていないが、それが誰なのか私は一瞬でわかってしまった。

あれは間違いなく、私が好きだった先輩。

この私が間違えるわけがない。

まさか、ここで再会するとは…。

「本日のお会計は1650円になります…」

しかし先輩は私のことなんて覚えていないかもしれない。

私はあえて何も言わず、そのまま会計処理を続ける。

「花純ちゃん…?」

「え…?」

「同じ高校だった花純ちゃんだよね?」

「先輩…。覚えてたんですか?」

「忘れるわけないじゃないか。…っと今は忙しいよね。ごめん」

「あっ…いえ…」

「あのさ、せっかく久しぶりに会えたから話したいこともあるし…。また今夜連絡してもいいかな?」

「えっ!?はい…!」

先輩は会計を済ませると、私に向けて軽く微笑んでから病院を後にした。

先輩が私のことを覚えててくれたなんて…。

私は嬉しくてついつい口元が緩んでしまう。

自分の頬がまるで林檎のように赤く火照っているのもわかる。

(いけない…。今は仕事中なんだからしっかりしなきゃ!)

私は自分の頬をペチンと叩いて、気を引き締め直す。

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