リモート会議の裏側

・作

彼氏とお家デート中、リモート会議をすることになる。小一時間の別行動のはずが、待ちきれなかった彼氏が机の下からいたずらしにきて…会議を続けられるのか、それとも快楽に負けてしまうのか。静かなる攻防が今、始まる。

「ほれ」

「ん、あんがと」

美鈴は麦茶を受け取ると一気に半分ほど飲み干した。

プハッと音が鳴りそうなほどいい飲みっぷりに、麦茶を差し出した彼氏、辰己はケラケラと笑っている。

「美鈴はガンガン飲んでくれるから脱水症状の心配なくて助かるわ〜」

朗らかに笑う彼に目を向けず、美鈴はパソコンを見つめながら口を開いた。

「塩分取らなきゃ水だけ飲んでも脱水症状なるで」

「え!?まじ!?」

辰己は慌ててキッチンへ行くと塩を袋ごと持ってきた。

ドンっ、と塩を前に置けば真面目な顔で口を開いた。

「舐めろ!」

「無茶言うな」

美鈴は袋を丁重にお返しすると背もたれに体重をかけ、窓の外を見上げた。

外は日差しが容赦なく照らしつけ、照り返しも相まって一歩外に出たら燃え尽きてしまいそうだ。

確かにこの中を水筒一本で勝ち抜けと言われても無理な話だが、あいにく美鈴はクーラーの効いた部屋でのびのびさせてもらっている。

朝ごはんもしっかり食べたのだ、倒れる心配はないといえよう。

辰己はしばし塩を勧めてきたが、断り続ければ渋々引き下がった。

「そういや、この後リモート会議だから静かにね」

思い出したように呟けば辰己は大袈裟に振り向く。

仕事のときは前々から伝えてと言われていたため、やってしまったと思った。

「え!?今日休みじゃないの!?」

「休みだけど会議はあるんだよね〜」

会議といっても少しの擦り合わせだけで、せいぜい一時間弱だろう。

休みを消費されたと思うほどのものでもない。

着々と会議に向けて準備をしていると辰己は口を尖らせた。

「今日一日ずっと一緒だと思ってた」

「ごめんて。ずっと一緒ではあるからさ〜」

会議が始まったら帰ってもらうわけではないのだ。

小一時間別々のことをしていればいい。

しかし美鈴にとって苦でなくても辰己にとってはそうでないらしい。

拗ねたように口を尖らせているが、これは仕事だ。

辰己には悪いがここは仕方ないとして飲み込んでもらうしかない。

美鈴は特に気にすることなく会議に向けて準備を再開した。

*****

「はい、やはり次はもう少しインパクトのあるものの方がいいと思うんです」

拗ねた辰己を置いて会議は着々と進んでいく。

画面越しの同僚がこちらの話に耳を傾けており、美鈴もまた自身の意見をプレゼンしていた。

資料をめくりながら美鈴は仕事のことばかりに気を取られていた。

それ故に、彼の行動に目を向けていなかった。

「前回までは、謂わば王道の、ッ!?」

唐突な下半身の接触に肩が跳ねる。

視線を下ろすとデスクの下に悪戯笑顔を見せる辰己がいた。

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