酔いと慰めに包まれて

・作

夫に不倫されて地元に戻ってきた今井美緒は、ある日パート先の飲み会に誘われた。そこで一緒に働いている竹下大貴も彼女に浮気をされたという話を聞き、浮気/不倫をサレた側のつらさを分かち合う。すると酔った勢いもあってか、大貴は「慰め合いませんか」と提案をしてきて…。

5年目になる結婚生活が夫の不倫によって幕を下ろし、私は地元へと戻ってきた。
結婚と同時に授かった5歳になる息子は、私一人の収入ではとても育てられない。

父も母も戻ってこいと言ってくれたので、その優しさに甘えることにしたのだ。
とはいえど、甘えてばかりもいられない。

パートではあるが私も働きに出て、貯蓄を増やさないと今後のことが…。

「今井さん!」

強めに名前を呼ばれ、ようやく私は職場の休憩室にいることを思いだした。
ふと顔を上げると、私の名前を呼んでいたであろう新卒の男の子、竹川大貴くんがいた。

「大丈夫ですか…? ずいぶんぼーっとしていたみたいですけど、どこか具合が悪いとか…?」

黒縁眼鏡の奥から、優しそうな瞳がこちらを心配そうに見つめている。
こちらに気を遣わせるのが申し訳なくて、握っていた缶コーヒーの中身を一気に飲み干し、無理やり笑顔を作ってみせた。

「大丈夫です! ちょっと眠たくなっちゃっただけですよ!」
「そうですか? それならいいんですけど…無理はしないでくださいね」
「ありがとうございます。それで、何か用事でもありました?」
「そうそう、それなんですが…今日、総菜部門のみんなで飲みにいかないかって話が出てまして」

私がパートに来ているここのスーパーは、従業員の距離が近くてみんな仲が良い。
あまり長くはいられなかったけど、私の歓迎会も開いてもらったほどだった。

「飲み会かあ…ちょっと待ってくださいね、一時間だけでもいいか家族に聞いてみます」

母にメッセージを送ると、すぐに返事が来た。
息子のことは見ておくから、たまにはゆっくり飲んで人とおしゃべりしておいで、と。

「大丈夫です、行けますよ」
「ああ、本当ですか! よかったです、じゃあ時間は…」

ちょうど時間と場所を聞いてから、休憩時間が終わりを迎える。

「それじゃあ、また夜に」
「はい! よろしくお願いします!」

これから休憩に入る竹川君へ軽く手を振り、私は職場へと戻っていく。
飲み会と言っても、あまり気持ちの上がるものではなかった。
それでも何かしらの予定があるということが、私の心を少しだけ潤してくれたのだった。

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