目蓋

・作

伏目がちな雰囲気の幼馴染が少しだけ気になっていた。母に“頼まれた書類”を届けるために幼馴染に近付き様子をうかがう。ほんの少しだけ彼に興味があっただけなのに、理由をつけて家に招き入れるように仕向けたら…。

「そういえば、お隣のコージくん、大学院に進学するらしいわよ。
そんなに頭の良い子とは思わなかったんだけどね、努力家なのね」

無神経で失礼な発言だけど、それは事実。
私の知っている“コージくん”は中高での成績は最悪だった。
母が何故それを知っているのかって、彼の大学の教授をしているからだ。

「あんたには言ってないわよ、何も」

私は親の期待には応えられたことはないけれど、母の意見は“女は頭がよく真面目でも何もいいことはない”という考えらしい。

こんな考えの人が大学ではフェミニストで通っているのだから驚きだ。
人は見かけによらないし、何を考えているのかなんて、見当もつかない。
しかし、シングルマザーで子育てをしてきた、立派な女の意見には従おうと思う。
母も私と種違いの姉を産むまでは、かなり男関係は派手だったらしいし、それについては、互いに干渉はしない。

――なら、私も誰にも言えない関係を作っても問題ないよね?

*****

お隣のお姉さん気取りの私とぽかんっと口を開けている“コージくん”
大人しそうな黒髪のショートボブに伏し目がちな表情が、いかにも陰キャな雰囲気感をかもし出していて堪らない。
非常に美味しそうな男を見つけてしまった。

「コージくんだよね?」

「…あっ」

突然、家の前で話し掛けてきた女に動揺を隠せないようだった。

「これ母から預かってて、同じ大学だって聞いてるんだけど、今日渡さないといけない書類、急いでて忘れてったみたいで」

ワザと母のバッグからくすねた書類の入ったファイルを手渡す。
母には事前に“ファイルが机の上に置きっぱなし”と報告してあるから、完全犯罪。
学校で渡しても、家で直接手渡しても何も変わらないし、母は私に“渡しておいて”と命令までしている。
誰も私が仕組んだことなんて気付いていない。

「…ナミちゃん」

「あっ、久しぶりだね。コージくん前会った時は中学生ぐらいだっけ?」

私は覚えている。
最後に会ったのは、大学進学の時期で冬だった。
母にコージくんの母親が進路相談に来た時だった。
私は反抗期真っ盛りで、勉強のことなんて他人事だった。
その時は勉強のストレスの捌け口を探していたけど、さすがに幼馴染に手を出すのは問題があると悟っていた。

「ナミちゃんって失礼ですかね?」

「何言ってるの、幼馴染なんだから好きに呼んでくれていいのに」

確か歳の差は4歳ぐらいだったはず。
私が浪人中の出来事だったけど、コージくんは無事に高校の編入もして、大学まで進学できたんだから、私とは大違いだ。

――だから、気になっているのかなって。

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