憧れの先輩と二人きりの天体観測

・作

大学三年にして初の天文サークルの夏合宿。宿泊もできる天文台で二泊三日が楽しみで仕方ない月乃。ところが参加したのは自分含めたったの二人。もう一人は密かに思いを寄せる笹倉先輩。緊張しっぱなしの中、頼みの引率教授は『家族サービス』と帰ってしまった。天文台で二人きりの夜が始まる…

子供のころから星座や星座にまつわる神話に興味があった。大学で天文サークルに入ったものの、都会では大して星が見えず明るすぎる街灯に邪魔され、未だに見えたものは惑星という悲しい結果…。ところが、

「合宿しようぜ。そうだな、二泊三日ぐらい?なんか教授の知り合いの超個人的天文台らしいんだけど、天体望遠鏡は勿論、宿泊施設も兼ねてるらしくて。天文台にも泊まれるけど割と近くにホテルもあるって」

サークルの部長がそんな事を言い出して、念願の天体望遠鏡に喜び勇んで一も二もなく参加に丸をしたんだけれど…。

「サークルの合宿って聞いたんですけどね」

「俺もそう聞いたんだけど。幽霊サークル部員がほとんどだったんだなうちって」

「でも、仮にも天文サークルで天文台に興味示したのが二人ってどうなんでしょう」

「それな。折角お盆で就活の息抜きにきたのに」

笹倉先輩と二人って。皆色々予定あるだろうし、全員は無理だと思ってたけど。三十人は絶対にいるであろうサークル内で二人って。少なすぎない?しかもこのお盆の時期に。そりゃ、ここまで山奥とは思ってなかったけれどさぁ。

「そもそも教授があの調子じゃなあ、人が来ただけマシだろう」

「その引率教授が僕は家族サービスしないとだからって、さっさと帰っちゃいましたけどね」

初老の引率教授が言うには、

「ほらお盆で帰省シーズンでしょ。もうすぐ三歳になる孫が遊びにくるんだよね」

とかいってたけど。

流石に先輩と二人は緊張する。笹倉先輩は学部は違うけど、気さくないい先輩で密かに憧れていた。というより、好きな人だ。
先輩が何とも思ってなくても、こちらとしては緊張するというか。

*****

星座板を片手に天体望遠鏡をのぞき込む。

「ペルセウスがばっちり。街灯が明るいところじゃこうはいかないからな」

「あ、待って写真撮りましょう、写真」

ハッキリ言ってテンアゲだった。活動らしい活動が出来なかった天文サークル。それが、天文台で星空観察。しかも好きな人と二人でとかテンション上がらない方がおかしい。

「水島って、名前月乃だっけ。月乃ちゃんって呼んじゃだめ?」

「いいですけど」

「俺の事は気軽に海斗君とかでいいよ。月乃ちゃんだけ特別」

「え、流石に先輩相手にそれは…」

先輩の方を向くとバッチリと目が合った。目を合わせたままなのも気まずいし、だからと言って露骨にそらすのは感じが悪いので、仕方なく視線を少し下げた。

「何でそらすの?」

「だって、なんか、ドキドキするから…」

「なんでドキドキするの?聞かせてよ」

意地悪そうに笑う笹倉先輩。この時点で全く気が付かないほど先輩は鈍い人じゃない。だから、絶対に分かっているだろう。それでも私はためらいがちに言葉を紡ぐ。

「せ、先輩が好きだから」

言い切るか切らないかで唇を塞がれた。それは噛みつくみたいなキスだった。

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