魅惑の香りに乱される夜 (Page 2)

置かれた金額を見た時から思っていたけれど、やはりホテル代を払っても余った。そもそも何があったのか何も思い出せないけれど、半額は私が持つべきではないだろうか。いや、記憶がしっかりしてないけどワンナイトと割り切るべきか…。

もやもやと悩んでいたものの仕事はいつも以上に捗り、定時で帰れることになった。迷いに迷った末結局電話することにした。番号をタップするときも、呼び出し音がしている今も指先が震えている。

「はい、加賀見です。燈子さん?」

「え、はい、そうです。あの昨日はご迷惑をかけてすみません。申し訳ないことに、何も覚えてなくて…。あの、ホテル代お返ししたいので一度お会いできませんか?」

「え、いいのに。…多かった?本当にいいのに。気が済まないって言っても。うん、わかった。じゃあ、金曜日に駅前で待ち合わせでいい?」

「大丈夫です。7時でも大丈夫ですか?…ええじゃあ、金曜日に7時で。はい、失礼します」

また会う約束をしてしまった。年齢と職業と名前ぐらいしか知らないのに。いろんな話をしたのは覚えているのに、なんでそこから全然覚えてないんだろう。そういえばスクリュードライバーはアルコール度数が高いって。度数の高いお酒飲んでたからかな。

*****

そうこうしているうちに約束した金曜日。時間より早く着いたのに加賀見さんはもう待っていた。

「すみません、お待たせしました」

「ううん、今日はこっちの会社に用があって思ったより早く終わったから早く着いただけで」

そうだったのか。鞄から封筒を取り出し差し出した。

「ご迷惑おかけしました。おつりと半額です。ご確認ください。一応レシートも入ってます」

「思ったより安かったね。じゃあ、これを軍資金に少し飲もうよ。最近教えてもらったところ。行こう?」

お金だけ渡して帰ろうと思ってた。なのに、私は彼の手を取って彼について歩き出した。頭痛が消えたあの時惹かれたんだろうか。もっと知りたいはだめなこと?自分でもよくわからない。実際会って、お金だけ渡して帰るのは惜しい気がした。

加賀見さんは当然のように車道側を歩き、私の歩くスピードに合わせてくれている。別に必要はないのにつないだ手を放そうとはしない。天気とか無難な話をしながら歩いた。人通りの多い金曜日の夜。私は、彼は、二人はどんなふうに見えたのかと考えた。

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