教えて、何もかも…
美雨(みう)は25歳のOL。結婚を前提に交際している忠(ただし)は穏やかな好青年だが、夢中になりきれない自分がいた。そんな美雨に、中学校の同窓会の知らせが届く。大好きだったが片想いで終わった同級生を思い出し、心が熱くなる美雨だったが…。
「そろそろご両親に会わせてほしいなあ」
ワイシャツを着ながら忠は言った。
「そうね…」
髪をとかしながら、私は答える。
「僕の方はいつでも大丈夫だからね」
彼はニッコリ笑って、私の頬に優しくキスをした。
*****
「送ってくれて、ありがとう」
シートベルトを外しながらお礼を言うと、
「待って」
忠は私を抱きしめ、キスをしてきた。
「おやすみ、美雨」
優しく言いながら、ドアを開けてくれた。
私は手を振りながら車を見送り、マンションに入った。
ポストから郵便物を取って、エレベーターに乗る。
部屋に入ると、どっと疲労感が込み上げてきた。
両親、かあ…。
結婚を考えてくれている忠は、早くご両親に挨拶をしたいと言う。
そして、自分の両親にも会ってほしい、と。
私はといえば、恋人がいる、としか母に言っていない。
二年前、入社してすぐのことだ。
隣の部署の野村忠に、デートに誘われた。
温厚な性格で仕事もでき、見た目も爽やかな好青年だ。
誰からも評価の高い忠を、断る理由は見つからなかった。
彼はいつも優しくて、これまで喧嘩したこともない。
結婚したら、きっと穏やかな家庭が築けるに違いない。
でも、何かが足りない気がする…。
それが何なのか、私にはわからない。
テーブルに置いた郵便物を見ていくと、実家からのものがあった。
少し大きめの封筒を開けると、いつもの優しい母の手書きメッセージと、往復葉書が入っていた。
中学校の同窓会のお知らせ。
心がざわめいた。
三年生のとき、大好きな人がいた。
寝ても覚めても、彼のことばかり考えていた。
目をつぶると、今でもその笑顔が思い出せる。
藤本優樹(ゆうき)くん。
私たちはとても仲がよかった。
でも、私に告白する勇気はなかった。
苦しくて切ない片想いだった。
彼は、県外の進学校へ。
私は、私立の女子高へ。
それっきり、会うこともなかった。
でもそれから何年もの間、彼を忘れたことはなかった。
久しぶりに、心の奥がキュンとなった。
彼は、来るだろうか…。
はやる気持ちでボールペンを取り、『出席』に丸をつけた。
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