壁の向こうの闇に堕ちて… (Page 2)
修司はすっかり眠ったようだが、私は逆に目が冴えてしまった。
眠さのピーク時に、三回戦目を挑まれたからだろう。
少し外の空気を吸ってこよう。
もう真夜中だし、ついでに明日のゴミも出しちゃおう。
*****
鍵をかけてアパートを出ると、夜風が気持ちよい。
ゴミを捨てて、月灯りの下を少し散歩した。
アパートの二階に上がり、ドアノブに鍵を差すと、突然隣の部屋のドアが開いた。
こんな真夜中なので、ビックリした。
開いたドアから、若い青年が出てきた。
私が引っ越してきたときに挨拶に行ったが、それ以来ほとんど会ったことはない。
「あ…こんばんは…」
慌てて挨拶をする。
青年は背が高く痩せている。
髪は少し長めで、眼鏡の奥の瞳はクールそうだ。
「…こんばんは…じゃないよ」
低い声で言うと、近づいてきた。
「もう真夜中なんだけど?」
声は静かだが、明らかに不快感を示している。
「あ…ごめんなさい、真夜中に出入りして…」
慌てて頭を下げながら答えると、
「そのことじゃない」
青年はいきなり私の腕をつかみ、自分の部屋の玄関に引き入れた。
すぐにドアを閉め、鍵をかけてしまった。
「ちょっと…!」
腕をふりほどこうとしたが、全くかなわない。
「何するの!離して!出して!」
彼は玄関のドアに私を追い詰めて言った。
「アンタさ、毎週毎週オトコ連れ込んでヤリまくって…でっかい声でよがりまくって…どんだけ近所迷惑かわかってる?」
あ…!
とっさに間取りを考えた。
うちのベッドは確かにこちら側の壁に密着している。
それに、最初は周囲を気にしていた声も、最近は気にしなくなっていた…。
恥ずかしさで顔から火が出るようだった。
「ご、ごめんなさい!私、本当に失礼なことを…!」
何度も頭を下げた。
「もう遅い」
彼は私の腕をつかんだまま、部屋に引きずり込んだ。
「アンタには関係ないだろうけど、俺、浪人中なの。しかも二年目」
そう言いながら奥の部屋に引っ張っていく。
「ようやく模試の結果がよくなってきたのに…この2ヶ月、毎週毎週、アンアン聞かせられて…」
いまいましそうに続ける。
「勉強が手につかないんだよ…しかも一晩に何回も何回も…お前ら発情期か!」
言われたとおりで、何も言い返せない。
涙目になっておずおずと言う。
「ごめんなさい…」
彼は、ベッドに私を押し倒し、壁の方に追いやった。
すると、壁の向こう側から、修司のイビキが聞こえてきた。
ウソ…!この壁、こんなに薄いの!?
ベッドのすぐそばには机があり、参考書やら何やらが山積みになっていた。
「状況、わかった?」
彼が苦笑した。
私は黙って頷いた。
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