暗闇の密室で付いた火が消えなくて

・作

偶然憧れの先輩とエレベーターに乗り合わせた、澄香。ところがエレベーターが途中で止まり助けを待つことに。心細さに震えていると先輩が急にキスしてきて…!助けられてからもドキドキが止まらない澄香。体が熱いままの帰り道で自然と二人の脚はラブホの前で止まる。憧れの先輩と甘い夜がはじまる…

その日はたまたま残業で、定時より1時間ほど遅れた。エレベーターが丁度停まってるのを見て、ドアが閉まる前に慌てて声をかける。

「あ、待ってください。乗ります!」

「久しぶりだな、安西。お疲れ様」

「岸本先輩、お疲れ様です。先輩も今帰りですか?」

「安西もか?実をいうともうちょっとやりたかったんだけど最近労働基準法がうるさいだろ」

そういって先輩は笑った。しかしたまたまとはいえ岸本先輩と一緒とかラッキーだ。新人研修のときにお世話になった先輩で、頼りがいがあって、親切で、教え方も丁寧でわかりやすく、さっぱりした塩顔イケメン。いわゆる憧れの先輩。部署が違うからなかなか会う機会なかったけど、顔見るだけでモチベあがる。

「部署違うから最近会わなかったけど、元気そうだな」

「はい、仕事も楽しいです」

短い会話をしているとがたんっとエレベーターが大きく揺れた。ふっと電気が消える。嘘、とまった?先輩が全部の階数ボタンを押す。そして、緊急ボタンを押した。

「エレベーターが止まりました。Kビルの3号機です」

先輩が全部の階数のボタンを押したにかかわらず、開かないってことは中途半端なところで停止しているってことだ。助けがいつ入るかわからない。思わずぎゅっと鞄の持ち手を握る。

「分かりました。お願いします」

「先輩…」

「すぐ来てくれるって」

真っ暗な密室。いつ助けがくるかわからない、エレベーターの中。急に怖さと心細さに襲われた。暖房が切れたエレベータの中、その心細さと寒さから震え始めた体をぎゅっと抱きしめるように腕をさする。

「安西…、大丈夫か?」

「え、あ、はい。だ、大丈夫です…」

誰がどう聞いても大丈夫そうな声ではないことは自覚している。でも、強がりでもしないともたない。暗くてよかった絶対顔色悪いから、言葉に説得力がなくなる。

「暖房も切れてるっぽいな。寒いから、もっと寄りなよ」

「は、はい」

おずおずと先輩の隣に立つ。といってもくっつくのは気が引けて、15センチぐらい間が空いて、肩が触れるか触れないかの場所に落ち着いてしまう。チラッと先輩の方をうかがうと目が合った。

「なんでそんな離れてんの。もっとおいで、意味がないから」

「や、それは、緊張するというか」

ぐっと腕を引かれ、先輩の胸に倒れこむ形で抱きしめられた。驚きのあまり呼吸も止まると同時に震えも止まった。どさりと肩から鞄が落ちる。ためらいがちにジャケットを握る。

「先輩?」

「今日は寒いな」

そういって唇を塞がれた。触れるだけの軽いキスに驚いて顔を上げる。それでも拒否はしなかった。言外に2回目をねだる様に少し背伸びをした。

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