その瞳に焼き付けて

・作

大学の構内で映像科の三田幸樹に被写体を頼まれたまどか。拝まんばかりに頼まれ、しぶしぶ了承したまどかだけどカメラ越しにじっと見つめられると体が熱くなって。触れてしまったらもう止まらない、今はその瞳で私だけを見ていて…

「お願いします。神崎まどかさん、俺の映像の被写体になってください」

映像科3年の三田幸樹と名乗ったその人は、大学の廊下でそういってそれはそれは深く頭を下げた。通りかかる人が何だ何だとこちらを見てくる。彼は頭を上げない。私がうんと言わない限り下げ続ける気だろうか。

「あの、できれば場所を変えません?その詳細を聞かないとお返事はできないというか…」

「え、あ、いきなりすみません。じゃあ、そのよかったらお茶でも…」

最近大学に全国チェーンのコーヒーショップが入った。話を聞いてもらう側だからとおごってもらったコーヒーに口をつける。いきなり映像の被写体だとか言われても困るというか。そもそも演技とか無理というか。

「課題で短編のサイレントムービーを撮ることになって。サイレントムービーというか一種のプロモーションビデオみたいな。演技とかいらないし、用意した衣装でちょっと歩いたり、振り返って笑うだけでいいから。だから頼む」

今度はテーブルに額がつきそうなぐらい頭を下げられた。拝まんばかりを通り越し、拝み倒されている気分。
同じ年で同じ学年の人、しかも男性にそこまで深々と何度も頭を下げられ断れる人間なんているんだろうか。いるとしたら悪魔か魔王だ。結局断りたいけれど、断りきることもできず了承することになった。

「上手く出来るか自信ないんで、期待はしないでください」

「上手くやろうとする必要とかないし、本当に自然体でいてくれたらいいから」

その自然体が実は一番難しいというのをわかっているだろうか。

*****

後日同じく映像科だという人達とワゴン車に乗せられてやってきたのは近隣の植物園だった。コスモス畑が人気のそこでの映像がどうしても欲しいらしい。今日の服装は事前に渡された衣装の白いワンピースだ。

「イメージとしては洗剤のCM。小道具のシーツをこうマントみたいにひろげて」

真っ白なシーツを渡される。少し広げて言われた通り広げてみた。意外と難しい…。2、3回やったら一応形だけは何とかなった。
気持ちのいい風を受けて、舞う髪を耳にかける。視線を感じてそちらに目を向けると三田さんがカメラを向けてこちらをじっと向けていた。

「カメラも調子よし、そろそろ撮影しようか。ゆっくりこっちに向かって歩いてくるところから、行くよ。よーいスタート」

言われた通りゆっくりと歩く。じっとカメラ越しに見つめられている。自分だけをじっと見つめていると思うと感じたのは高揚に近い何かだった。いつもは不快なはずの視線も、不思議と嫌じゃない。シーツを風にはためかせる、思った以上に上手く広がったシーツを手にカメラに振り返り笑う。

「OK。残りは室内だし、また連絡するね」

にこりと笑った顔を見て、胸がどきんっと音を立てた。

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