裏切れない相手ができました (Page 2)

「なんか、お取込み中にすみません」

「こちらこそ申し訳ありません、お見苦しいところを。誰にも言わないでくださいね、風評に差し障るので。その、口止め料がいるっていうなら何かお礼するから。その、お金以外で私にできる範囲で」

「お姉さん、定時なんですよね。俺、待ってるんで少し付き合ってもらっていいですか?」

頬を染めてそういう青年にかわいいとか思ってしまった。そんなこと言うの初めてなんだろうか、初心な感じが心をくすぐる。私は声を潜めて

「正面玄関からでて右側の駐車場のところに職員用の出入り口があるから、そこで待ってて」

そういって、落としたといっていたパスケースを手渡した。ありがとうございますとだけ言って、小さくうなづいてくれたのを見て帰り支度をするため歩き出した。

*****

職員用出入り口のドアを開けると青年がこちらを見た。

「待たせてごめんなさい。えっとぉ、付き合ってほしいことって…」

「ついてから話します」

それだけしか言わないので、少し警戒しながらついていくとそこは某キャラばかり扱ったファンシーショップだった。

「いや、その、歳の離れた妹がこのキャラ好きでして。プレゼント見繕うの手伝ってほしいんです。俺一人じゃこういうところ入りづらくて」

確かに店内は女性客やカップルが多く、このお店に一人は心細いというか普通に入りづらいだろう。

「任せて。妹さん何歳?」

「7歳下だから17歳。あ、俺、城田直樹って言います。よろしくお願いします、お姉さん」

「上田光希よ。お姉さんじゃなくて、光希さんって呼んでね」

患者さんの顔と名前が一致しているわけではないので、名前は見たことがあったけれど認知はこれが最初といえる。7歳下の妹さんが17歳ということは24歳か。年下かなとは思ってたけど。

そのあとファンシーショップでプレゼントを見て回り、さすがに荷物になるからといってプレゼント用の配送を頼み店を後にした。ほっとした顔をしている城田君にちょっといたずらしてやろうと思って、わざと腕にぎゅっと胸を押し付ける。

「ちょっとドキドキしちゃった。こういう話だと思わなくて。別にこういう要求でもよかったんだよ?…なーんて」

「そういうの真に受けますよ」

「冗談のつもりだったんだけど、いいよ。真に受けても」

腕を振りほどくことも、拒否もしない。城田君は戸惑いと緊張を混ぜたような目でこちらを見ている。これといってそれ以上会話もなく、目に入ったホテルの玄関をくぐった。

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