慎重かつ前向きに検討させてください

・作

水道管破裂で暫くアパートを出ざるを得なくなった由奈。安いホテルを探していると上司である結城課長と遭遇した。事情を話すと『ウチ来る?』と言われ、断り切れず厄介になることに。一緒に録画した映画を見ているとラブシーンで目が合ってしまい…

仕事が終わり、家に帰ると部屋が水浸しでした…。

「由奈ちゃん!やっと帰って来た!やっぱり!上の階の水道管が破裂しちゃったの!こちらで修繕も清掃も家具の補填も引き取りも手配するから、しばらく友人の家とか実家に帰るかしてくれないかしら?」

店子は皆私の子供も同然と言ってくれるような気のいい大家さん。そんな至れり尽くせりの待遇で申し訳ないけれど、この水浸し具合じゃ家具、家電一切合切駄目だな。

とりあえず実家に電話して今は着ないシーズン外の服だけは引き取ってもらったし、印鑑と通帳はまだ無事だったし、調理器具は大家さんが預かってくれると言ってくれたし、しばらく分の衣服とアクセサリー類、スマホの充電器、例の印鑑と通帳をボストンバッグに詰めて、泊まるところを探すことになった。

友人の家と言っても、家はそう近くないし、会社から遠くなるんだよなぁ。実家は地方だし。一体いつまでかかるか分からないけど、仮住まいのウィークリーマンションとか見つかるまで安いホテルとか泊まれないかな…。

*****

「こんなところで何してるんだ?」

「その言葉そのままお返しします、結城課長…」

大学が近いため地方からの学生の為に安いホテルが多い地区で結城課長とバッタリ会った。びっくりした、似た人かと思ったけど本人だったとは。

結城課長は確か32歳とかでわが社最年少の課長。独身で恋人もいない、優しくて頼り甲斐があるので人望も厚い。いわゆる理想の上司なんだけど。

「俺はこの道突っ切ったほうが家まで近いんだ。早見こそ、そんな大荷物で。引っ越しの前準備?」

「引っ越しというか上の階の水道管が破裂して、しばらく帰れなくて。ウィークリーマンションとか見つかるまで安いホテルに泊まろうかなって」

「友人の家とかは?」

「会社から遠くて。同僚は頼みづらくて。なら、安くて素泊まりできるホテルの方が気も楽だし…」

同僚を頼るのが一番手っ取り早いのは確かだ。皆割と会社から近いところ住んでるし。ただ、実家暮らしとか、恋人と同棲中とか、友達とルームシェアとかで頼りにくい。

「ふぅん。ウチ来る?」

「…ウチって結城課長の家ですか?」

「そうだけど。別に実家暮らしじゃないし、恋人がいるわけでもないし、客用の布団ぐらいならあるけど。会社から徒歩10分」

「え、そんな上司の厚意に甘えるのは…」

「早見の手取り位知ってるよ。いつまでかかるか分からないんだろ?ウチにおいで」

そんな事言われて断り切れず、結城課長の家で厄介になることになった。

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