結構なお点前で

・作

母親の強い勧めでお茶の教室に通うことになった、碧。ていうか、マンツーマンなんて聞いてないんですけど。聞いた以上に美形で若い家元の凪さんに緊張して、なにかと失敗してしまう。すると「たまには罰も必要ですね」と言われてしまい…

「女性の美しさは所作に出るんですって。だからね、お茶を習いなさい」

「え?」

「碧、お茶を習いなさい」

どう考えても思い付きとしか思えない。なんで所作の美しさ=お茶を習うなのかがよく分からない。他にも色々あるだろう。でも、まあ何を言っても無駄なのは経験的に悟っている。

大変気が乗らないと言えば乗らないけれど、三駅ほど離れたところにある家元の教室に通うことになった。

*****

「初めまして、碧さん。これから指導させていただく凪と申します」

「よ、よろしくお願いします、先生」

聞いてない。20代半ばとは聞いていたけど、美形だなんて聞いてない。しかも。

「最近生徒さんもなかなかで、しばらくはマンツーマンでも構いませんよね?」

これも聞いてない、五人くらいいるものだと思うじゃん。生徒が私一人なんて聞いてない。

どうもまだ継いで日が浅いらしく、正式なお披露目などもこれからだと言う。現在他の生徒さんはというと先代が指導しているという。要は古参のベテランばかりで、ビギナーの新入りには大変だということだ。

そもそも私はまだ学生の身で自由になる時間も少ない。

「高校の授業の範囲なら経験があるとお聞きしてますが、うろ覚えな部分もあると思いますので少しづつ行きましょう」

物腰の柔らかい先生。小さな茶室で向かい合うだけでバクバクと心臓が音を立てた。少しづつ点て方も思い出して来たけれど、目が合っただけで手順が飛ぶ。失敗ばかりだけれど根気よく指導していただいている。
でも、どうしても緊張してしまい上手くいかない。

*****

通い始めて二ヶ月。週一、通算六回目である。

「碧さん、お茶碗の回し方は時計回りです」

「あ…」

凪先生の涼やかな目に見つめられると、右も左も分からなくなる。一度お茶碗を置く。やり直しだ。単衣の袖口を整える。

先生は洋服でいいと言っていたけど、母にどうしてもと言われ単衣を着せられている。今度こそちゃんとお茶碗を時計回しに回した私を見て凪先生はポツリとこぼす。

「決して素養がないわけではないと思うんですが、そろそろ厳しくいきますか。たまには罰も必要ですね」

この調子では一日に何回もミスをしそうだし、いい考えだとは思った。この時は。

「罰、ですか?」

「そうですね、一回間違えるたびに脱いでもらおうかな…」

冗談ですよねと言おうと思った。でも、場の空気がそれを赦(ゆる)さない。パッと立ち上がる。長時間正座に加え動きにくい単衣だ。転んだ。

凪先生が畳に私の手を固定する。

「捕まえた」

「こ、困ります!」

「嫌ではないんですね」

是とも否ともいえないまま、唇を塞がれた。

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