それは教授の指示でした…

・作

大学三年生の歩美は、尊敬する高橋教授のゼミに入ることができて、学生生活を満喫していた。研究熱心な歩美はゼミ長でもあり、教授の手伝いをしていた。いつものように手伝いをしようとした歩美だが、その日に命じられたのは…!

「駅前に新しくできたカフェに行くんだけど、歩美も行かない?」

4限の講義が終わったあと、親友の麻子が声をかけてきた。

「う~ん、行きたいけど、今からみんなのレポート持って先生のところに行かなきゃ」

ぶあついファイルをチラリと見せながら答えると、

「また高橋教授?ホ~ント熱心なんだから」

と麻子は苦笑した。

「夢だったゼミに入れたんだし、ゼミ長の責任もあるし…また今度誘って!」

笑顔で答えると、荷物をまとめて教授室に向かった。

私は中澤歩美。大学三年生になったばかりだ。
一年生の頃から、三年からのゼミは高橋教授のものに入ると決めていた。
自分の著書を延々と読み続ける退屈な講義が多いなか、高橋先生のは違っていた。
体験談や余談も交えつつ、それでいて重要なポイントを外さない、興味のひかれる内容だった。

しかし、高橋先生は人気があるうえに、ゼミは少人数しか取らない方針なので、事前にはレポート試験があり、だいぶ人数が絞られた。
それに合格した私は上機嫌だった。

先生の人気の理由は、魅力的な講義だけではない。
ルックスが大いに影響していた。
細くて長身、ほんの少しの白髪混じり、銀縁の細い眼鏡、シャープな顎のラインと、やや低音の声。
クールでダンディーな紳士、というのがピッタリだ。

それなのになぜか独身。
一部では、バツイチだとかバツ2だとかいう噂もある。
美形だから浮気が激しくて奥さんに捨てられただとか、研究熱心すぎて実は奥さんに興味を持てなかっただとか、皆の憶測は勝手なものだ。

しかし、私にはそんなことはどうでもよかった。
先生の著書はすべて読んでいたし、その研究成果と授業の内容だけで、尊敬する気持ちはじゅうぶんだった。
崇拝に近いといっても過言ではない。

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