愛しの騎士様は満月の夜、獣になる

・作

エルフと人間のクォーターであるシエル。長年繰り広げられた異種間戦争に勝利し帰国した騎士隊長セレスと、慰労パーティーで出会い、セレスの執務室でお茶を飲むことに。ライカンスロープのセレスは、満月の夜に変身し獣となり…。

100年に渡って繰り広げられてきた異種間戦争。

人間とエルフやホビットといった多様な種族が手を取り合い、魔族やオークの連合軍と戦ってきた。
何度となく繰り返される派兵。

傷つき、疲れ果て、愛する人の帰還を願い、誰もが希望を失いかけたその時。

私の住む国、エアドルドにも「魔王を打ち破った」という知らせが届いた。
エアドルドで1番の剣士といわれていた、騎士隊長セレス様の負傷の報と共に。

エアドルドを出た時に10万を超えていた兵士は3000にも満たなかった。
愛する人を失った悲しみが人々の心に重くのしかかる中、帰還した兵士たちに対する慰労パーティーが開かれた。

大きな丸い月が見守る中、大広間には着飾った令嬢たちが華を添えている。
華やかな場所は苦手だけども、国を守った英雄を労う会だ。

勇気を出して参加したものの、やはり「場にそぐわない…」と入ってスグに後悔した。

私はいたたまれなくなってテラスに出た。
そんな私を隠すように、雲が月明かりを遮ってくれる。

テラスに置かれた椅子に腰かけたその時。

「パーティーは退屈ですか?」

と暗がりから声がした。

「えっ…いえ、あまり慣れない場所なので…」

恐るおそる声を絞り出すと、雲の切れ間から月明かりが差し込んだ。
黒い眼帯をした近衛隊の騎士様だった。

「隻眼の騎士様…セレス様…?」

セレス様は、魔族との戦いで片目を負傷したと父から聞かされた。

「そうです。近衛隊長のセレスと申します。蒼衣の宰相デュミナス様のご令嬢シエル様」

「どうして私の名前を?」

「美しいプラチナブロンドに瑠璃色の瞳。お父様にとても似ていらっしゃる」

「確かに珍しいですものね。お初にお目に掛かります。セレス様」

丁寧にお辞儀をすると、セレス様が近づいて来た。
鳶色の瞳がじっと私を見つめる。

ひとめ惚れ…なのかもしれない。
私はセレス様の瞳から、目が離せなくなってしまった。

「お目にかかれて光栄です。シエル様」

少し低い声が心地良く響く。
胸の奥が甘くしびれる。

「セレス様はどうして外に?」

騎士隊長と言えば今日のパーティの主役の一人だ。

「シエル様と同じ理由でしょうか…。こういう場は苦手なんです」

困ったように微笑む顔に、胸が高鳴った。

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