スーツを着た悪魔

・作

私の彼は他部署で営業職の同期。物腰柔らかで、常に爽やかな笑顔を振りまいていて、成績もそこそこいいらしい。しかし、仕事のストレスを抱える彼は、私の体を好き勝手に抱き潰すことを生きがいにしている。スーツを脱いだらまるで悪魔のようだ。

『ねぇ、営業の榎本くんまた大口の契約とってきたらしいよ』

『マジ?仕事できて顔もいいとか最高じゃん』

『私榎本くんのこと狙ってんだよねー。優良物件すぎでしょ』

『わかるー!でも絶対ライバル多いわ』

 

化粧室でメイク直しをしている同僚の会話が大きすぎて、嫌でも聞こえてきてしまう。

私は何も聞いていませんよ、という顔をして、その隣で手を洗う。

 

でもね、残念でした。

その榎本くんの彼女、私だよ?

―――

営業の榎本くん、榎本タケルとは同期入社だった。

たまたま歓迎会で隣の席になり、爽やかな笑顔、さり気ない気配り、優しい口調…自然と会話が弾んだ。

私たちの距離が縮まるのに、時間はかからなかった。

ただ、彼の人あたりの良さに、入社当時から人気が高く、付き合っていることは秘密にしようと、私から提案した。

こんな地味でなんの取り柄もない事務職の私が彼女だなんて知れたら…あぁ恐ろしい…。

そんなことがあり、彼の話題は社内ではよく聞くが、知らん顔を突き通しているという訳だ。

―――

「ただいまぁ…」

「おかえり。なんか今日、すごい疲れてない?」

「今日の営業先は遠くてね、移動だけでもクタクタよ…」

はぁ…とため息をつきながら、のそのそと革靴を脱ぎ、ネクタイを緩めながらタケルはソファにドカッと腰を下ろした。

私たちは半年前から同棲している。
同僚たちにバレないよう、少し離れたアパートを借りて。

定時上がりの私は夕食の担当をしている。

ぐったりしているタケルの前に、とても上手とはいえない料理を並べていく。

「あー、疲れて帰って、ご飯ができてるなんて幸せ…」

「たいしたものは作れないけどね」

「そんなの関係ないよ、帰ったらユミがいて、ユミの作ったご飯が食べられる、本当に幸せだよ」

「ふふっ…ありがとう」

どうやら今日のタケルは相当疲れているようだ。
こんな日、私はとても緊張する。

タケルは疲れた日ほどセックスをしたがる。

しかもこの男、普段は温厚な反面、セックスとなると別人のようになってしまう。
今日のように疲れた日ならなおさら。

この調子だと、今夜は寝かせてもらえないかもしれない…。
まだ晩ごはんも食べる前だというのに、私は1人、不安と期待で胸が高鳴り、体が火照った。

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