推しの配信者は新人バイトでした

・作

私にとって唯一の趣味が、ケイ君という男の子のラジオ配信を聞くこと。そんなある日、職場に新人バイト君が入ってくる。圭君という名前で、声もケイ君と同じ。ずっと聞いていたあの人が目の前にいる。そう思ったら…私は我慢ができなくなってしまった。

「よろしくお願いします、圭って言います」

職場で新人バイト君の声を聞いた瞬間に、ドキッとする。

なぜなら、私がここ2年間毎週聞き続けているラジオ配信者の声に、そっくりだから。

少し低くて、優しそうな声。

しかも、その配信者の名前はカタカナでケイ君だ。

まさか、まさかだよね…。

ただの偶然だよね?

でも、声を聞けば聞くほど、圭君の声はケイ君に似ている。

気になって、ドキドキして、仕事に集中できない…。

そんなある日、配信の中でケイ君がバイトを始めたという話をしていた。

バイトの内容も、ピッタリ合っている。

やっぱり、圭君はケイ君なんだ…。

でも、違う。

私はケイ君の配信が好きなだけなんだから、好きな人のプライベートに関わってはいけない。

そう思っていたのに…。

*****

「先輩って、俺の配信見てますよね」

「え!」

ある日いきなり聞かれてびっくりしてしまった。

誰もいないオフィスで、思いきり気が動転。

手に持っていた書類を落としてしまった。

こんなの、イエスだって言ってるようなもの…。

「やっぱり。先輩、俺が近づくと焦るし。それに、スマホの画面見えちゃったんです。配信アプリの画面が出てた。俺のページ」

「あ、えっと…」

「多分、名前は手紙ちゃん」

「な、なんでわかるの?」

「よく先輩が休憩中に読んでる本、手紙ちゃんのお気に入りの作者さんだから。なかなか見ない作者さんでしょ?」

「あ…」

胸がぎゅっとなる。

覚えていてくれたことがうれしい。

「実物の俺ってどうですか?」

「あの、想像していたよりも、ずっとカッコイイと思う…」

「手紙ちゃんは想像通りだった」

「え?」

「いつも穏やかで優しいコメントくれるから、どんな人なんだろうってずっと思ってた」

「そんな…」

「バイト始めて、先輩のことすごくいいなって思って」

「え?」

「だから、先輩が手紙ちゃんなの、すごくうれしい」

よくわからない。

今、何が起きてるんだろう。

「手紙ちゃんが好きなのは、配信者としての俺ですよね。毎回放送来てくれてるし」

「う、うん」

「じゃあ、先輩は?先輩は、俺のことを好きになってはくれませんか?」

「それ、どういう意味…?」

「ハッキリ言います。先輩が好きです。俺と付き合ってもらえませんか?」

「え…え?」

体がふわふわする。

私はずっとケイ君が好きだった。

でも一緒に仕事をしていく中で、いつの間にか圭君のことが好きになっていたから…。

「よ、よろしくお願いします…」

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