先生と先生の親友とわたし。
TL漫画家の鳩山てるみ先生とアシスタントのわたしは、ひょんなことから両想いだと発覚。先生は触れるだけのキスをして「明日また来てくれ。シャワーを浴びてから…」と、一旦家に帰されてしまう。次の日、ドキドキしながら先生の家へ行ってみたら、先生の親友だという男性もいて…?
「先生、チェックお願いします」
「ん」
先生は作業を中断し、わたしから受け取った原稿をチェックした。
「問題ない、脱稿だ!うるは君、半年間ありがとう。君がいなければ連載を無事に終わらせられなかった。感謝しても足りない」
「担当の方の最終チェックが終わるまで気は抜けませんよ。あとコミックス用のカラー表紙と後書きと後日談の書き下ろしが」
「まぁ、うん…はははっ」
「うふふ」
「ともあれ原稿は完成した。前祝いに今から少し飲まないか?」
「はい!」
先生が用意していた缶チューハイで乾杯した。二人ともお酒は弱く、半分も飲まないうちに酔いが回ってきた。先生は上機嫌になってキラキラとした笑顔で次作品の構想を語った。
わたしが先生と呼ぶこの人は、TLコミック界で大人気の鳩山てるみ先生だ。
SNSで「短期集中連載の為アシスタント募集」という投稿を見かけ、わたしは即座にDMを送った。憧れの先生と対面したとき、驚愕した。鳩山てるみ先生は男性だった。
心理描写が丁寧で読み返す度に胸がキュンとして、その作風から女性だと思い込んでいた。驚きはしたけど、だからといって先生が先生である事には変わりなく…。寧ろ作品に対して情熱的に取り組む先生を間近で見て、畏れ多いことに一人の男性として意識してしまう様になっていた。
元々背景に至るまで全てを先生一人で描きあげていた。この短期集中連載が終わればわたしと先生との繋がりはなくなる。そう思うと、とても寂しい。先生ともっと深い仲になれないだろうか。ファンやアシスタントではなく、恋人として先生の側にいたい…。酔いの勢いに任せて、わたしは先生に告白してみた。
「わたし、実は先生が好きです」
「えっ」
先生は寝耳に水といった様子で動きが止まってしまった。
しまった。言うべきじゃなかった。でも、もう遅い。
「…そうか、まさか両想いだったとは」
先生は照れくさそうに目をそらし頭をポリポリと掻いた。信じられない…先生もわたしの事を想っていてくれたなんて。お互い沈黙の後、
「…キスしても、いいか?」
断る理由なんてあるはずもないわたしは目を閉じ唇を少し尖らせた。
顎に先生の手の感触がして、クイっと上を向けられる。先生は触れるだけのキスをするとわたしの両肩を掴んだ。このまま抱かれるのかな、なんて思っていたら、
「君も心の準備があるだろ。これ以上は駄目だ」
「先生、わたしは…」
「すまない。今日はもう帰ってくれ」
「そんな…」
いろんな気持ちがごちゃ混ぜになり、泣きそうだった。仕方なく先生の言う通り素直に家へ帰る事にした。
先生は玄関まで見送ってくれて、
「君の事は魅力的に思ってる。それだけはわかってくれ。明日ウチに来れるか?シャワーを浴びてから…」
なんて言われ、その夜は全く寝付けなかった。
明日、わたしは先生に抱かれるんだ…!
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