セラピストに夫婦生活の相談をしていたはずなのですが

・作

夫婦でのセックスについて悩みのある人妻・チカは性のセラピストを名乗る男性に個室のカフェで相談をすることにした。砕けた雰囲気につい心を許してしまったチカはセラピストの催眠術にかかってしまい、そのまま…

「実は、夫にマグロって言われまして…」

私はため息をつきながら、目の前にいる焼けた肌の男性に話した。

ここはカフェの個室だ。パーテーションとカーテンで部屋が区切られており、外からは見えないし、会話もほとんど外に漏れない作りになっている。テーブルの上には二人分のアイスコーヒーが並んでいる。

「ふむふむ。チカさんには何か思い当たる原因はありますか?」

男性は東間(あずま)といって、ネット上で主に活動する性のセラピストと名乗っていた。それだけだとうさん臭いが、会わずにメールのやり取りをしばらく続ける中で、真摯に回答してくれたり実際に会うことを強く要請してくることもなかったのでチカは少しだけ警戒心を解いて会ってみることにしたのだった。

本人は35歳と言っていたがそれよりは少し若く見える。肌は日焼けしているがやんちゃな印象ではなく、服装もシンプルなポロシャツにカーゴパンツ、アロマネックレスが一つだけと清潔感がある。

明らかに年下のチカに対しても敬語で、物腰も柔らかかった。

「去年、夫の転勤で知り合いも全くいないこの土地に引っ越してきたんですけど、なかなかなじめなくて…そのストレスでしょうか…」

「それは確かにストレスでしょうね。それで、旦那さんにはそのことを分かってもらえてますか?」

「どうなんでしょう…。仕事から帰ってくると疲れているみたいですし、あまり口数も多くないのでよく分かりません」

夫は、いわゆるサラリーマンである。残業も多く休日出勤も多いが、給料はそこそこ良いほうだ。しかし、家では不機嫌そうにしていることが多い。

「なかなかね、コミュニケーションを取れない相手とセックスしても気持ちよくはなれないものですからね」

この程度の話はメールでしたこともある。東間は、運ばれてきて以来そのままになっていたアイスコーヒーを私に勧めてきた。その手を見れば、指はしなやかで爪はきれいに切りそろえられていた。

「でも、話をしようとしてもなかなか聞いてくれなくて…私もうどうしたらいいのか…」

「そんな状況でセックスだけしようなんて、旦那さんもたいがい鈍感だね~。ある意味ではマグロだよ」

東間の言葉に、チカは思わず笑ってしまった。まさかこんな風に言われるとは思っていなかったのだ。

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