兄のあたたかい手に導かれて…

・作

玲奈(れな)は、中学生のときに痴漢に遭いかけて以来、男性恐怖症。東京の大学に入学が決まった二年前から、兄と二人で暮らしている。ようやく最近、男性恐怖症も治まりつつあり、親しくなった男子に送ってもらった玲奈。しかしその帰り道、その彼が強引に告白をしてきて…!

「じゃあね、お兄ちゃん、行ってきます!」

「行ってらっしゃい。ホントに迎えは要らないの?」

「うん、何時になるかわからないし。たまには一人の夜もいいでしょ?」

兄は笑って私を送り出してくれた。

私は松村玲奈。大学三年生。
二年前に東京の女子大に通うことになって、実家を離れた。
そのとき親は心配して、私自身も不安だったので、一人暮らしではなく、先に上京していた兄のマンションから通学することにした。

普通は妹なんかと同居したら、彼女を連れてきたりできなさそうだし、嫌がられる可能性だってある。
でも、我が家はちょっと違っていたのだ。

あれは私が中学の夏休み。
塾からの遅い帰り道、痴漢に遭いかけた。
幸い近くの人が気づいて、痴漢はすぐに捕まり、何事もなくて済んだ。
しかしそれ以来、男の人が苦手になってしまったのだ。
父と兄以外の男性とは、接するのが怖くて仕方ない。

それから、私は家族に大事に守られてきた。
女子高への登下校も母が付き添ってくれた。
大学も女子大を選んだ。
ただ、行きたい学部があるのは、東京の大学だった。

そんなわけで、まわりからは過保護に見えるかもしれないが、兄は優しかった。
さすがに勤務している平日の送迎は無理だが、仕事が休みのときは必ず駅まで迎えにきてくれる。

今日はたまたまイベントがあり、私は大学に行く日だった。
たまには兄もゆっくり週末を過ごしたいだろう。

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