忍び寄る指先
彼氏にデートをすっぽかされ、楽しみにしていた恋愛映画を一人で観るはめになった私。スクリーンの中の官能シーンにうっとりひたっていると、隣の席から下半身に手が伸びてきた。感じてはいけないと思いつつ、痴漢のテクニックと、禁断のシチュエーションに堪えられなくなって…。
「おかしいなあ…」
悟との待ち合わせは12時なのに、スマホの時計はもう12:25になっている。
メールをしても、電話をかけても、反応はない。
ネットで二人分のチケットを予約した映画は、13時から上映だ。
5分や10分ならまだしも、連絡がないままこんなに遅れるなんて、今までになかった。
事故にでも遭ってたらどうしよう…。
もう一度電話をかけようとしたちょうどそのとき、悟から着信があった。
「もしもし?悟?」
「あ、ユキ?ごめんっ!今起きた」
電話の向こうの彼は、かなりパニックしている様子だ。
無事なのがわかって安堵したものの、今度は呆れが込み上げてきた。
「今起きた、って…。映画、あと30分で始まっちゃうよ?」
「うん…だよね…でも今から急いで準備して出ても、そっちに着くの1時半になっちゃう」
「え~。でもチケットはキャンセルできないよ~」
泣きそうな声で訴える。
「うん、わかってる。…そうだ!チケット代もったいないし、ユキ、あんなに楽しみにしてたろ?とりあえず一人で観て。俺、急いで出て、近くで待ってるから。ゆっくり感想聞かせて?」
なだめるように言う悟に、拗ねた声で答える。
「え~!!楽しみにはしてたけど…悟と一緒に観たかったんだよ?」
「わかってる。でも、今日のその回で終わりなんでしょ、その映画」
そうなのだ。
昔の映画を何本もリバイバル上映するというこの企画は、今日で最終日なのだ。
「…わかった…一人で観てくる。でも、ちゃんと迎えにきてね」
「もちろんだよ。うまいもんご馳走する。ユキ、本当にごめんな」
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