隣に夫がいるのに…! (Page 2)
その後、両家の顔合わせと結婚式で、洋一とは二回会った。
しかし、誠や義母のフォローもむなしく、ろくに話もせずに終わってしまったのだ。
お兄さんに会いたくないなあ…。
*****
金曜日の夜、予定どおり洋一は訪ねてきた。
精一杯の笑顔をつくり、誠と玄関に並んで私は出迎える。
「いらっしゃい。お疲れさまでした」
「久しぶりだね、はい、これ」
そっけなさは相変わらずだが、手土産を持参するなんて、少しはお近づきになれたのかしら。
普段はダイニングルームで食事をするのだが、その夜は和室の食卓に料理を並べた。
足を投げ出した方がくつろげる、という誠の案だった。
口数は少なかったが、洋一は私の料理を気に入ってくれたようだ。
それで気をよくした私も、彼に対する苦手意識が薄らいでいった。
その様子を見て、いちばんご機嫌だったのは誠だった。
もともと酒は強くないのに、飲むペースが加速して、ろれつが回らなくなり始め、とうとうその場で眠りこけてしまった。
「あ~あ、眠っちゃった」
お兄さん、今、笑った?
驚いて洋一の横顔をまじまじと見つめた。
彼の顔をきちんと見るのは初めてだった。
パッチリした目の誠とは違い、奥二重で切れ長の目。
細い銀縁の眼鏡がよく似合っている。
顎のラインはシャープで、首筋も綺麗だ。
それなのに喉仏はしっかりしていて、妙にセクシーに見えた。
男の色気って、こういうことなのかな?
視線を感じたのか、洋一は微笑んだ。
「初めてちゃんと見てくれたね」
それから私の方に向き直り、真顔で言った。
「俺は、ずっと見てきたんだけどな」
え?何を言ってるの?
「そう、初めて会ったときから、ずーっとね」
お兄さん、酔っぱらってるの?
心の声が聞こえたのか、彼は顔を近づけてきた。
「酔ってなんかいないよ。酒には強いんだ。誠と違ってな」
「お兄さん、なんかヘン、デス…」
私は軽くパニックに陥り、カタコトになってしまった。
そんな私の耳元に、彼はフッと息を吹きかけてきた。
「赤くなっちゃって、かわいい」
「お兄さん、からかってます?」
涙目になり始めた私の肩に手をのせると、彼はそっと唇を重ねてきた。
こんなドキドキ感は、高校時代のファーストキス以来だ。
「初めて会ったときから、ずっとこうしたかった…」
そっと私を抱きしめる。
必死で彼の腕から逃れようとしながら、小さな声で訴えた。
「ダメ、誠がいるのに」
しかし、当の誠は大口を開けてイビキをかいている。
全部良かった
全部最高好き
鈴木 さん 2022年7月20日