憧れの執事様との念願初えっちはねちっこかった (Page 2)

さて、うちの両親は私が執事に恋した件についてはおよそ肯定的だ。

母方は華族の血筋で、父も代々資産家の一族である。しかし、二人は恋愛結婚で、両家の関係は当時、現代版ロミオとジュリエットといわれる関係だったらしい。

「パパとママに比べれば、あんた達の障害なんてあってなきがごとしよ」と、母は豪語する。

父も「月乃が選んだなら間違いないよ。なにせ、ママの娘だからね」と手放しに賛成してくれている。

だが、ここで立ちはだかる問題はといえば…。

「またお嬢様はそのようなお戯れを」

「お戯れじゃないもん」

母と入れ替わるようにして、私を迎えに来た聖人に唇を尖らせる。

もう何回目かもわからない「好き」という告白は、今日も見事に玉砕した。

だが、百回二百回で諦める私ではない。

「お戯れにしてほしいのは聖人のくせに」

「私は執事ですから」

「じゃあ今日、私がママとどんな話をしたか聞く?」

これは賭けだ。

バルコニーに夕焼け色の風が吹き込む。風に撫でつけられた髪をそのまま靡(なび)かせて、私は立ち上がって聖人の顔を正面から見据えた。

距離が開いているおかげで、見上げずに済む。顎を引いて、ゆっくりと口を開いた。

「聖人が本気で私のことを雇用主としか思ってないなら諦める。でも、私一人じゃ諦められないから、ママにお見合いを頼んだ」

「それは…」

聖人が目を見開く。

三十歳になったくせに、聖人は出会ったときからあまり変わらない。

そんな聖人が今、私が庭で一番高い木に登ったときと同じ顔をして、見つめ返してきた。

「私のこと、ちょっとでも好きだって思ってくれるなら…私のことを、少しでも誰かに渡したくないって思ってくれるなら、今晩部屋に来て。来てくれても、来てくれなくても、もう私から聖人に好きっていわないし、これによって聖人の仕事に障りが出ないように私も配慮する。うちに居づらかったら、推薦状もパパに書いてもらうし…」

そもそもうちで十年勤め上げた聖人の経歴なら、どこへいっても重宝されるだろう。

退職金だけでも、下手をすれば二三年は暮らせる気がする。

私は知っている。

聖人はどんなに厚遇な引き抜きの話が来ても「お嬢様が一人前になるまでは」と断ってきたことを。

だったら、私も巣立つ決意を見せなければフェアではない。

「この件を知っているのは、私と、ママと、あなただけ。お嬢様って立場からいうのはずるいってわかってるけど、部屋に来るか来ないかはあなたの意志で決めて」

冷えた夜風が頬を撫でていく。

聖人はしばらく黙っていた後に「かしこまりました」と慇懃無礼(いんぎんぶれい)に頭を下げた。

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