お兄様の親友に溺愛されてとろけちゃいました

・作

マリエルが街に出かけたとき、嵐が起きて大の苦手な雷が鳴りだしてしまう。そんな時マリエルの兄の親友クリスと会い、クリスの屋敷に招かれ…。マリエルの「甘やかされたいです」のリクエストに応える、とろけるほど甘い2人の夜をどうぞ。

雷鳴が轟くと、大粒の雨が降り出した。

「マリエル様、雨が強くなってきました」

侍女のサラが、心配そうに何度も窓の外を見る。

「もう少し、様子を見てみましょうか」

御者のバートンの声に、店主がうなずいた。

「お嬢様、お茶を淹れましょうか…」

店主の言葉が終わらないうちに、店の扉が勢い良く開いた。

「すまない。少し雨宿りを…」

聞き覚えのある声に思わず振り返り歩み寄る。

「クリス様…!」

お兄様の親友のクリス様だった。

「あぁマリエル、どうしてここに?」

「お兄様の誕生日のために買い物をしようと…」

稲光と共に、ドドーンという大きな音が響いた。

「キャッ」

とっさに身をかがめようとすると、クリス様の大きな腕が私を抱き寄せた。

「マリエル、大丈夫だから」

心臓がドキドキする。

「はい…」

「大丈夫。僕がいるから」

そういうとクリス様は何度も髪を撫でてくれた。
ゴロゴロという雷の音がするたびに、身体が震える。

どのくらい時間が経っただろう。
雨脚は弱まるどころか強くなる一方だ。

「マリエル、僕の屋敷に来るかい?近いしその方が良いだろう」

クリス様はお城のすぐ近くに住んでいる。
確かにクリス様のお屋敷なら近いし、道も整備されているから安全だ。

「お邪魔しても良いのでしょうか…?」

「まだ雷が鳴っているから、どのみち君の屋敷まで帰れないだろう」

クリス様に言われて耳が熱くなる。
恥ずかしいけど、その通りだ。
小さい頃からどうしても苦手で、雷鳴を聴くたびに身体が震えだす。

「バートン、手紙を書くから届けておくれ。それからサラ、君は支度をして僕の馬車へ」

店の扉を開けると、経験したこともない嵐が吹き荒れていた。

*****

ゴロゴロと大きなお屋敷に雷鳴が響く。

ビクンとする度にクリス様は優しく抱いてくれた。
一人になるのが心細い私はどうしても手を離せなくて。
ずっとマントを掴んだまま、クリス様に身を任せていた。

クリス様の私室で食事をいただいて。
大きな音がするたびに涙目になる私を見て、しまいには膝にのせてご飯を口に運んでくれた。

「はい、あーん。美味しい?」

「えぇ、とても」

「そう、良かった」

クリス様の笑顔に、胸の奥がキュンとした。

身体が温まると、心も少しずつ温かくなる。
クリス様に促されてお風呂をいただいて。
温かい紅茶を飲んだころには、あんなに大きかった雷鳴も心なしか優しくなった気がした。

「そろそろ落ち着いたかな」

「はい、ありがとうございます」

「いつも雷の夜は、どうやって寝ているの?」

「昔はお兄様やお母様と一緒でしたが、最近はサラが寝付くまで傍に…」

「それじゃ今夜は、僕が傍にいてあげよう」

「えっ…!」

「ん?不満かい?」

「いいえ、そんなこと…」

言いかけた瞬間、ドドーンという大きな雷が落ちた音がした。

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