秘密のマネジメント

・作

人気俳優の上村慎太郎には、奥田美沙という少しドジなマネージャーがついていた。しかしそんな美沙でもずっと傍にいさせるのには、特別な理由があった。それは、慎太郎が身に覚えのないスキャンダルで傷ついていた時から続く、特別なマネジメントのおかげで…

「今日のゲストは上村慎太郎さんでしたー!ありがとうございました~!」

会場から拍手が巻き起こり、慎太郎は番組セットの横へとはけていく。
今日のトーク番組は、慎太郎が主演を務める新ドラマの番宣も兼ねての出演だった。
そのまま控室へ戻る慎太郎は、ふう、とため息をつき、肩を回してポキポキと鳴らす。
人気俳優である慎太郎の休みは少ない。
この後は別のバラエティ番組への出演が控えている。
椅子に座り、ペットボトルのお茶を煽ると、慎太郎の控室のドアをノックする音が聞こえた。

「お、お疲れ様です!すみません、車の用意をしてきてて…あっ!」

どたん、と転びつつ腕に抱えていた書類を巻き散らかしながら控室に入ってきたのは、慎太郎のマネージャーである奥田美沙。
慎太郎は呆れたように笑いながら、散らばった書類を拾うのを手伝う。

「あ、ごめんなさい!またやらかしてしまいまして…」
「いいよ。その代わりマネジメントはしっかりしてくれてるんだから」
「いやー、どこでも転んでしまうのはやっぱり恥ずかしいですよ…」

大きな黒縁眼鏡をかけなおしながら美沙も書類を拾い、慎太郎が拾った分も受け取った。
身長も小さく、動きがちょこまかと落ち着かない美沙を見て、慎太郎はクス、と口元をほころばせる。

「ま、どこでも転ぶ原因の半分くらいは俺のせいだし」

美沙の頬を撫で、慎太郎は控室の扉を閉めた。
慎太郎と扉に挟まれた美沙は、視線を右往左往させる。

「あ、あのあのあの、この後この控室使うみたいなので、ここでは、その」

背の高い慎太郎のみぞおちまでしかない身長の美沙は、逃げようと思えば脇の下からすり抜けられるはずだった。
しかし、美沙は逃げられない。
逃げることは許されないと、その身体に教え込まれているのだ。

「使うの何時間後?次は確か反対側のスタジオ使うし、数時間くらいここに入らないでしょ?それとも車でする時間ある?」

少し背を屈ませ、耳元で低く囁く慎太郎の声に反応し、美沙の肩がぴくりと上がる。
何かを悩むように俯く美沙だったが、やがて上を向いて慎太郎と目を合わせた。
すでに赤く染まった顔で、美沙は言う。

「…次の番組、別局ですし時間あるので、2時間くらいは車でゆっくりできると思います。な、なので…」
「なので?」

楽しそうに、慎太郎はその次の言葉を促す。
ごくり、と唾を嚥下する音が聞こえた後、震える声で美沙は望まれた言葉を繋いだ。

「車で…ケアさせて頂きます」

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