白い海に溺れて (Page 3)
1週間は長いように思えて、仕事に忙殺された毎日はあっという間だった。
私は先週と同じようにノックをし自身の名前を名乗り会議室に入る。
前回と同様の診察椅子に座り、顔に不織布がかけられ、ゆっくりと目をつむる。
「では、今から催眠療法に入っていきます。」
催眠療法の内容は、彼の言う言葉の通りに体の感覚を研ぎ澄ませて、現れた体の感覚を彼に伝えていく、と言うものだった。
手はどのような感覚か、足はどのような感覚か。
熱いか、冷たいか、痺れはないか、痙攣しないか、ひとつひとつ、質問に答えていく。
そのはずだったが、先生の心地のよい声に聞き入っていると、私はいつの間にか意識を手放していて、夢を見ていた。
夢の中で、私はベッドに寝転んでいた。
そして、夫ではない誰かがベッドの横に立ち、私に自慰するようにと指示をするのだ。
私はその指示の通りに、右手でブラジャーの上から胸を揉みしだき、左手で必死に自身の秘部の中を掻き混ぜた。
足先から頭のてっぺんまで、甘い痺れが伝わる。
久しぶりに女の悦びを思い出すには十分な刺激だった。
私は、もっと気持ちよくなりたいのだ。
夫のように自由に、結婚していることも忘れて、女性としての性を存分に発揮したいのだ。
そう考えれば考えるほど、自分の中で一層気持ちよくなりたいと言う欲が溢れ、私は自分の気持ちがいいところを指で擦る。
グチャグチャと、粘膜の擦れる音が響き、ベッドには私から伝った液体でシミができていった。
「あぁっ…イク…!イキそうです、先生!」
先生、と言う単語が自分から発せられた時に、私は急に我に返った。
びくり、と体が金縛りから解かれたかのように、私は目を開き、体を勢いよく起こす。
薄暗い会議室、キャンドルの香り。
先生は椅子に座り、カルテを片手に優しい眼差しで私を見ていた。
「わ、私は今何を…!?」
「催眠にうまくかかり、大田さんの抑圧している欲求の蓋を開いたんです。…そうですね。50分くらいかかりましたかね」
先生はそう言うと、少し笑みをこぼして、カルテに視線を移して鉛筆を走らせた。
先生の催眠術でこんな欲望が表に出てしまったことが恥ずかしいと言う感覚よりも、私は自分の下半身が疼いているほうに気を取られていた。
下着が濡れてまとわりつき、自分で濡れているとわかるのがより一層欲情に火をつけた。
「あの…先生。私、自分の欲求がわかったんです。自分がどうしたいのか、わかったんです」
先生は、鉛筆の動きを止めると、私の椅子のスイッチを起こすボタンを押しながら答えた。
「大田さんは、人よりも催眠にどうやらかかりやすいようですね。欲求がわかったなら、よかったです」
「先生…、私は、どうしたら」
「大田さん」
被せ気味に発した私の発言を先生は優しい声で制した。
「最初に言いました。カウンセリングは補助の役割です。行動を起こすのはご本人の役目だと」
そう言うと、先生は優しく微笑みカルテをパタリと閉じた。
「貴方は、どうしたい…?」
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