見習い執事はお嬢様の愛を知らない

・作

貴族のお嬢様であるルルティアは、執事見習いのクリスを気に入ってはいるものの、気弱で自分に自信がないところにうんざりしていた。ある時ルルティアは、クリスを男らしくするためにどうすればいいかと画策した結果、自分を抱けと命令する。

「もー!いい加減にしなさいよー!」

噴水とテラスがあり、色とりどりの美しい花が咲き誇る中庭に似つかわしくない怒声が響いた。

箒を持って掃き掃除をしているメイドが、数名ほど顔を見合わせてまたか、とため息をつく。

「あんたはねえ、卑屈すぎるの!私が褒めてるんだから素直に受け取りなさいよ!何が不満だって言うの?!あなたの淹れた紅茶がとっても美味しいと言っているのに!」

「も、申し訳ございませんルルティアお嬢様……!僕なんかが、お嬢様からお褒めの言葉を預かるなどとてもじゃないですが、恐れ多くて……」

「だからそういうこと言うのをやめなさいって言ってんのよ私は!まだわかんないわけ?!バカクリス!」

ルルティアと呼ばれた少女と女性の中間にいる女は、整えられた眉毛をキッと吊り上げて目の前にいる執事服を身に纏った青年、クリスに詰め寄る。

まだ10代で、男にしては随分と可愛らしい顔のクリスは、すっかり困ったような表情をしてペコペコと頭を下げていた。

陽の光に当たり、艶やかな金髪が白金色に輝いて見える。

それに合わせたようなエメラルドグリーンの瞳は、視線が定まらずにキョロキョロと走っていた。

「まずは私の目を見る!いつまで私と視線を合わせること自体がよくないことだと思っているわけ?」

「そ、そんなことは……」

「思ってるでしょ!」

ずい、とブラウンの髪の毛を靡かせ、ルルティアはクリスへとさらに距離を詰めた。

唇が触れ合いそうな距離まで詰められ、クリスはルルティアに視線を合わさざるを得なくなる。

「お、お嬢様……」

首を引いて顔の距離を作ろうとするも、クリスのタイを引っ張るルルティアはそれを許さなかった。

ルルティアの強い金色の瞳は、クリスの瞳を捕らえて離さない。

じっと数秒ほど見つめ、ルルティアはクリスのタイを手放す。

「クリス。あなた、今夜湯浴みの時間が終わったら私の部屋に来なさいな」

「えっ……?!」

「来なかったら私があなたのメイド役になるからね」

「そ、そそそそんなことは……!」

「させられないでしょう?それならちゃんと来なさい。わかったわね」

ふん、と踵を返したルルティアは、別のメイドに気分直しに街へ出ると伝え、クリスをその場に残して立ち去る。

しょんぼりとするクリスの目先には、ルルティアが飲み干した空っぽのティーカップが置いてあった。

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