雨の日の足音 (Page 3)

家で夕飯の玉ねぎを切っていると、じわりと目に涙が浮かんだ。

今日は、特に1人でいるのが辛い日だったのだ。

昨年のこの日に、彼はトラックに轢かれて命をおとしたのだ。

 

彼は一体どこにいったのだろう?この2週間、家からは一歩も出さずにいたのに、今日に限って網戸を開けて外に出ていくだなんて。

でも、猫は帰巣本能が強いから、きっと戻って来るに違いない。

美味しいご飯を用意して、待っていよう。そう考えると、ふ、と笑みが溢れた。

彼が来てから、私は自分の感情を表に出せることが多くなっていた。

彼は人間になれる時もあれば、猫のままの時もあった。

それでも、いつも私に寄り添い、温もりを与えてくれるのだ。

いつも仮面を被り仕事をする私は、女性の後輩には性格がキツイとよく泣かれ、先輩の男性社員には隙が全くない、と呆れられた。

長年付き合って結婚間近だった男性とも婚約破棄し、この年になるとまた1から恋愛もする気になれず、仕事一筋で生きていくと心に決めたのだ。

そんな私が、なぜこうも心を開けるのだろう?

彼を拾い、その温かい腕に抱かれ、なんの屈折もない深い茶色の目で私を射抜き求める姿はとても本能的に思えるのだ。

そして、言葉がない分、彼の一つ一つの行動と仕草が、私を駆り立てる。

嘘偽りなく求め合うことに、言葉なんて必要ないのかもしれない。

そんなことをぼんやりと考えていると、パタパタと、小さな足音が窓の方から聞こえてきた。

その黒い体は私の足元にすぐ駆け寄ると、しなやかに弧を描きながらすり寄って来る。

今からご飯にしようね。

そう微笑むと、彼はいつものように、深い茶色の目で私を見上げていた。

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