おかえりとただいま
付き合うようになってもう三度目の夏を迎えた。会社の休みの日に彼のアパートで帰りを待つのが定番だ。彼の帰りを待つこの時間がとても心地よかった。彼が息を切らしながら玄関のドアを開ける……彼は優しく微笑むとぎゅっと私を抱きしめた。
その日、葵はエプロン姿でアパートの狭い台所に立っていた。葵は囃子を掛けながら、キャベツに包丁を入れた。慣れた手つきで千切りにしていく。トントントンと軽快な音が部屋の中に響く。
葵はめずらしく平日に休みが取れた。料理をしながらテレビをつけていても、週末とは違う番組ばかりが放送されており、特別な休日のような気がしてならない。
葵はコンロで火をかけていた鍋の蓋を開けると、おたまで中身をすくい上げて味見をした。ネギとうす揚げの味噌汁だった。隆史の大好きな具の組み合わせだ。付き合って約三年、互いの食べ物の好みもわかるようになった。
「よし、隆史好みの出汁が効いた感じ!」
さっき刻んだキャベツをサラダボールに盛り付けて冷蔵庫に入れると、葵はソファーに腰掛けた。
しばらくして玄関で鍵を開ける音がした。隆史だ。葵はこの瞬間がたまらなく好きだった。私たちは結婚しているわけではないけれど、愛おしい人の帰りを待つというのは、とても心が躍る。玄関を開けると、隆史は部屋をのぞいて葵の姿を探した。
「ごめん!遅くなった!」
「おかえり。全然いいよ、お疲れ様」
葵が出迎えると、隆史は嬉しそうに破顔した。カバンを床に置くと、葵をぎゅっと抱きしめた。葵の首に顔をうずめて、五感で葵を堪能している。隆史の息が肌に当たり、くすぐったくて仕方がない。
「ちょっと……ん、も、もう……ごはん準備しなきゃ」
「葵……もう一回言って?」
「何を?」
「おかえりって、もう一回言ってくんない?」
隆史は葵の下唇を指でなぞると、目を細めて葵の言葉を待った。思わず吹き出しそうになりながらも、葵は囁くように「おかえり、隆史」と言った。
隆史は襟元をゆるめると、葵にキスをした。突然の激しいキスに、葵は立っていられなくなる。元ラガーマンの隆史はそんな葵を片腕で支えながら、容赦なく葵の口内を犯す。舌が絡まり合い一つの生き物のようにうごめいた。
息が苦しいのが心地よく感じてしまうのは、私の身も心も隆史のものになったからだろうかと、ぼんやりする頭で考えていた。
隆史は器用に腰のあたりで結んでいたエプロンの結びをほどくと、葵のお尻から太腿を撫でる。葵の顔が歪むと申し訳なさそうに呟く。
「ごめん、晩飯より……葵を先にもらう」
「え?あ…ん、もう……」
隆史は葵を横抱きして、ベッドへと運ぶ。隆史の腕はすでに熱く、燃えるような体温だった。興奮しているのはお互い様だった。葵も隆史のキスの時点で、自分の奥から愛液が浸みだしているのを感じていた。
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