あなたの旦那、借りてます (Page 2)

「佐伯さん、いまさらですがお子さんは?」

…そうよね、毎晩煙草吸ってたら気になりますよね。

「残念ながら子供は…。ウチ、そういうこと、もうしないのよ…」

パート先で嫌というほど浴びせられてきた言葉。

『子供はまだなの?』

ついに近藤さんにも聞かれてしまったか…。

顔が見えないことをいいことに、セックスレスであることまで打ち明けてしまった。

少しの沈黙の後、

「ウチもね、奥さんがバリキャリでほとんど家にいないんだよね…だからね、ご無沙汰」

またいつものように、ハハッと笑う。

一方、私はドクン…と胸が高なった。

ベランダの、壁越しにいる彼もまた、セックスレスだったなんて。
長年、悩み続けていた、でも1人じゃなかった。

なんとなく話ができるだけでも楽しかったのに、共通の悩みを抱えているとなると、勝手に親近感が沸いてしまい、とても嬉しかった。

この胸の高鳴りを悟られぬよう、その日は適当に取り繕って早々に部屋に戻った。

―――

翌日。

いつも通りベランダに出ていると、小さく折られたメモ用紙が防犯壁の隙間から渡された。

『旦那さんの不在の日、もしくは問題のない日を教えてくれませんか?』

これは、そういうお誘いと捉えていいのだろうか…。
どうしても期待してしまう…。
私は無意識に左手の薬指を隠した。

次の日。
いくつかの候補日を書いたメモを渡した。
彼からもまた、奥さんの在宅日などのメモが渡された。

こうして、何日もかけて私たちは日程調整を重ねていった。

デジタルが溢れる現代、文通のようで新鮮だった。

このときすでに、旦那に対しての罪悪感よりも、この持て余した心と体が満たされることへの喜びの方が勝っていた。

―――

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