名前も知らないイケメンのいたずらから大学の空き教室で…♡ (Page 5)
落ち着いてから、並んで座る彼が静かに語り出したのを、私は黙って見ていた。
「最初に君を見かけたときはガラス越しで友達に笑いかけてた」
奈緒を喫煙所まで迎えに行った内の、いつかの話だ。まさか彼も私を見ていたなんて。
「そのときはにこにこ笑う可愛い子だなぐらいにしか思ってなかったけど…」
僅かに言い淀んで、私を真っ直ぐに射抜いていた瞳が宙を彷徨い始める。
「次に見かけたときはなんか怒ってて…」
そんなこともあったかも?腹が立ったことや嫌だったことは大抵奈緒に愚痴っているから、そのときも聞いてほしくて仕方なかったんだろう。
「表情豊かな子だなーって思ってただけだったのに、気づいたらもっと近くで、ほかの表情も見てみたいと思うようになってた」
少し赤らんだ顔を隠すように口元を覆う彼。もしかして照れてる…?さっきまであんなことしてたのに?そう思うとなんだか笑えてくる。
「軽くちょっかいかけて、照れた顔が見れたらいいなくらいに思ってたのに、まさか乗ってくるなんて」
「びっくりした?」
「びっくりどころか…。こんな…エッチな顔まで見せてくれるなんて」
私だってこんなつもりなかったのに。でも、ひとつ深呼吸して意を決したような彼に、その黒い瞳で見つめられるとやっぱり抗えなくなる。
「名前、教えてよ」
「拓海だよ、梨香ちゃん」
「名前も聞こえてたの!?」
「だから気をつけてって」
屈託なく笑う彼は、私が思い描いていたクールな人とは少し違ったみたい。ちょっと意地悪な顔も照れた顔も、それからまだ知らない顔も、もっと近くで見ていたい。
Fin.
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