推しの彼と二人だけの秘密

・作

私には俳優の推しがいる。彼のことを応援しているだけで仕事も頑張ることができ、何より幸せだった。変わり映えのしない毎日を過ごす中、偶然街で彼と出会う。いけないとわかっていても、彼の誘いを断ることはできず…。

私には、推しがいる。
その推しがベッドの上で私に問う。

「いつもの僕と今の僕、どっちが好き?」

*****

私、山本瑞樹の推しは俳優の松井友哉である。中性的な顔立ちで、美しい笑顔が魅力的な彼は最近、徐々に人気が出てきて脇役ではあるが連続ドラマにも出演している。3年前たまたま見に行った舞台に彼が出演していてそこから好きになった。SNSではファンを思いやる優しい投稿も多く仕事はしんどいけれど、推しがいるから毎日頑張れている。

仕事終わり、夜ご飯を買いにコンビニへと寄る。今日も本当に疲れた。店内へ入るとお弁当のコーナーには先客が居た。早く私は家に帰りたい。先客が退くのを待たず、隣へと並び商品を選ぶ。しかし隣からの視線が気になり、恐る恐る横目で見ると、

そこには私の推しである松井友哉がいた。

「…えっ?!」

なんで…?頭はパニックである。

「こんばんは」

推しが喋った…私に。
返事をしない私へ、彼は更に

「今から夜ご飯?」と聞いてきた。
たくさん見てきたあの笑顔で首を傾げた彼。

「…あの…松井さんですよね…?」

「そうだよ。ねえ、一緒にご飯食べない?」

キャップの上からフードを被り、マスクをしていた彼はマスクを少しずらして顔を見せてくれた。やっぱり本物だった…。

「って…え?!ご飯ですか…?」

「僕、お腹すいているんだ。いいでしょう?早く行こう」

結局何も買わずに2人でコンビニを出た。
今日もいつも通りの日常だったはずなのに…。

「僕のおすすめのお店でいい?」

思わず着いていってしまっているが、状況が未だに飲み込めない。

「あの…わたし…ファンなんですけど、大丈夫ですか…?」

「えっ?もちろんわかっているよ。いつもありがとう」

どういうこと….?

「前から舞台を観に来てくれていたり、イベントやドラマのエキストラにも参加してくれていたよね?まさか偶然会うとは思わなくて、びっくりしたけど思わず声を掛けちゃった」

*****

彼のおすすめのお店についてからも、ずっと夢見心地で、ご飯の味も彼が何を話していたかも思い出せない。

「ねえ。まだ帰りたくないなあ。瑞樹ちゃんはどう?」

グラスを片手ににこにこと笑う彼の誘いを断れるはずはない。それが何を意味しているかわかっていたとしても。

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