真夏の熱にやられて。

・作

打ち水を誤って掛けられてずぶ濡れの私。水を引っかけてきた相手は着流し姿のイケおじ!枯れ専の私はそんな彼とどうにかお近づきになれないかと無理矢理家に上がり込み、胸をはだけてお誘いすればノッてくれたものの…?

「きゃっ!」

夕方に差し掛かりはじめた時間。もう少しすれば陽が落ちて涼しくなるはずだが、まだ昼間の暑さが残っておりじんわりと汗が出てきては肌をベタつかせた。

額の汗を拭い、早く家に帰ってキンキンに冷えたビールを飲みたい…そう思いながら早足で自宅へ急いでいたら、急に体がびしょ濡れになった。打ち水を掛けられたのだと気付くのには、数秒かかった。

「ちょっと、どうしてくれんのよこれ!」

早番だったのに人手不足で残業させられたうえに満足な休憩もとれず、イライラしてつい声を荒げてしまうのは仕方のないことだった。日傘を上げて、水を掛けてきた相手の顔を拝む。

「あわわ、悪ぃ、お嬢さん」

困った顔でバケツと柄杓を手にしているのは、着流し姿の男性だった。私よりも軽く一回り以上は年上だろうか。少し長めの髪を後ろでひとつにくくっていた。

染めていない白髪混じりな髪はより老けた印象を持たせる。しかし体躯はしっかりとしているようで、裾と袖口からのぞく手足にはほどよく筋肉がついていて普段から身体を鍛えているのだろうと容易に想像できた。背は高く、若い頃は絶対にモテていたであろう顔立ちは「イケおじ」にカテゴライズされる。

『…この人めっちゃ私のタイプだ』

幼い頃から時代劇が好きで隠れ枯れ専の私が、目の前にいる着流しの男性にときめかないはずがなかった。もし趣味で剣道をしている、なんて言われたらドストライクで無事私昇天のお知らせ。反射的に彼の左手薬指を見るが、指輪はしていない。

『これはイケおじとお近づきになれるチャンスなのでは…?』

きっと連勤残業続きで職場と自宅の往復しかできずに出会いが一切無い私に与えられたご褒美だ。で、あれば。私がすることはひとつ。

「…バスタオル貸していただけます?あと出来ればシャワーも…」

オロオロする彼の負い目に付け込んで、日本家屋風の作りな自宅へ無理矢理上がり込んだ。

近くのコインランドリーで濡れてしまった服を洗濯してくるよう彼にお願いし、その間にシャワーを浴びた。浴室内に置いてあるシャンプー類をチェックすると、男性向けの物のみで女の影は無さそうだった。

『よっしゃ、フリー確定!あとはどうやって致すに至るかだな〜…裸で抱きつけばイケるかな?』

我ながらあまりにも適当なプランだが、きっと成功するだろうという根拠のない謎の自信に満ち溢れていた。

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