若き調教師に全てを捧げて、淫らな新世界へと堕ちる夜

・作

単調な日々に何か刺激が欲しくて、思いつきで訪れたSMバー。そこで美那は、SM調教師である祥太から声を掛けられる。「僕と簡単なプレイをしてみませんか?」──魅惑的な声の持ち主である祥太に、気付けば心酔していた美那。一回りも歳下の彼と行う初めてのSMプレイは、あまりにも倒錯的で…

「隣、いいですか?」

土曜日の夜、雑居ビルの地下に居を構えるバーで私はグラスを傾けていた。初めて訪れたこの店は、SMがテーマのコンセプトバー。来店客の女性比率が高く、小さいながらもステージショーが楽しめるところに惹かれて足を運んでみた。とはいえ私はSMプレイの経験などなく、単調な日々に何か刺激になるものをと模索した結果だったが。

「あ、はい…」
「すいません、いきなり声を掛けてしまって」

1人飲みを邪魔された、と心の隅で思いながらも、ひとまず私は承諾の返事をかえす。すぐ隣のカウンタースツールへと腰掛けた彼は、私と同じカクテルを注文した。長身で塩顔、ダークブラウンのマッシュヘア。そして服装はモノクロの綺麗めコーディネートと、いわゆる今どきのイケメンだなという感想を抱いた。

「僕は祥太っていいます。SMの調教師をやっていて」
「…美那、です」
「このお店は初めて、ですか?」

それからぽつぽつと話をするうちに、彼が私よりも一回り下の22歳であること、プロの調教師としてSMクラブやバーに勤務していること、休日の夜はこうして誰かに声を掛けてお酒を飲んでいることなどを知り得た。最初は低俗なナンパ、あるいは新参者へのお節介か何かだと構えたが、話しているうちに彼への不信感は払拭されていった。

「美那さんがもし、SMに興味をお持ちでしたら…一度、僕と簡単なプレイをしてみますか?」
「でも祥太さんは、プロ…なんですよね?」
「もちろんお金は請求しませんよ。これは完全なプライベートの提案だと思ってください」

祥太の声には何ともいえない心地良さがあり、言葉がスラスラと胸の内に馴染んでいく。それから、諸般の仕草にも色気と嫋(たお)やかさがあり、つい目で追ってしまうような魅力を孕んでいた。

「まぁ、いきなり誘われても困りますよね…僕も滅多にこういうことはしないんですが、美那さんには何となく声を掛けたくなってしまって…」
「あ、あの…」
「…ん?」
「私で、よければ…お願い、します」

声は上擦り、ともすれば縋(すが)るような雰囲気を滲ませてしまったかもしれない。それでも私は、祥太から差し出された『刺激』を掴みとらずにはいられなかった。一瞬だけ驚いた顔を見せたものの、すぐさま満足気に微笑んだ祥太。彼の、たったそれだけの表情に、私の中で何かが目覚める気配がしていた。

「じゃぁ、色々と打ち合わせをしましょう」

34歳で独身ともなると既婚で子持ちの友人たちとは話が合わなくなり、日々の過ごし方もお互い違って疎遠になった。かといって、半ば惰性で仕事を続けているような私は、出世街道を歩むバリキャリの友人たちとも温度差があり。これまでに彼氏は数人いたし、遊んでいた頃には何度かワンナイトも経験した。けれどもここ1年近くはご無沙汰で、別に男に飢えてはいなかったものの、祥太からの誘いには紛れもなく胸が踊った。

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