寡黙なドクターは待てができない
看護師の南芽衣子は、ほんわかした雰囲気で周囲から好かれるタイプ。ずっと憧れていた南原先生から告白されて、芽衣子は喜んでオッケーする。真面目でエリート、冷血だと囁かれている彼は、実は芽衣子の前だけでは全く違っていた。
私の勤務するこの大学病院は、比較的穏やかな方だと思う。今の院長が穏やかな方だからか、派閥争いや医師同士のマウント合戦も目に見えて酷いものはない。
私の所属する消化器内科病棟の看護師達も、皆いい人達ばかり。
そんな職場運に恵まれた私・南芽衣子(メイコ)は、今年で看護師歴も五年目に突入する。
仕事は毎日大変だけどやりがいもあるし、何より数ヶ月前に彼氏ができてからはプライベートも絶好調だ。
「南さん」
後ろから、トントンと肩を叩かれる。
振り返ると、涼しげな整った顔と目が合った。
「南原(ミナミハラ)先生」
「頼んでおいた〇〇さんの体温表、どうなってる?」
「あ、それならここに」
「確認するから、渡して」
「はい、どうぞ」
私からファイルを受け取った南原先生は、ニコリともせずそのまま去っていった。
「はぁー、相変わらずイケメンだわぁ。無愛想だけど」
彼が去った後に、同期の華(ハナ)が私の肩に顎を乗せる。
「あの先生のクソ細かい要求に応えられるのは、芽衣子だけね」
「そんなことないよ。確かに細かいけど、それだけ患者さん思いってことだし」
「私ら看護師のことも思ってほしいけどねぇ」
「あはは」
看護師の間では、南原先生の評価は大体こんな感じ。年は三十二で未婚、国立医大卒のエリートで将来有望。高身長顔良しスタイル良しの優良物件。
だけど笑った顔を見たことがないし、優秀ゆえにこちらに求めるレベルも高い。きついいい方で、新人看護師や研修医を泣かせてしまったりってこともしばしば。
私もこの病棟に配属されたばかりの頃は、色々冷たいことをいわれて落ち込んだりもしたけど。
患者さんに真摯に向き合う姿が素敵で、それからはずっと密かな片想い。だって、まさか南原先生も私を好きだなんて思ってなかったから。
告白された時は、夢かと思って自分の頬っぺたをつねってしまったくらいだ。
「真剣に仕事と向き合う優しくて芯の強い君が好きだ」と言われて、自分自身を認めてもらえたようで本当に嬉しかった。
憧れの南原先生とお付き合いするようになって、はや5ヶ月。プライベートでの彼は、お医者様である南原先生とは全然違った。
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