ワンコ系御曹司は私をご所望のようです (Page 3)

「住原さん…住原さん、大丈夫?」

「ん…」

「水、飲める?支えててあげるから、ほら」

「…あれ、私…どうなって…」

「覚えてない?一人じゃ帰れないっていうから、ホテル行くけどいい?って聞いたら頷いたんだよ」

「…久遠、主任」

「えっ、そこから?」

心地いい笑い声が、すぐ耳元で響く。ボーッとする頭で、必死に状況を整理しようと目を閉じた。

一回だけっていわれて仕方なく久遠主任とご飯に行って、気まずくてついつい飲み過ぎて。

しかも、久遠主任調子良く勧めてくるし。

それでウトウトしちゃって…

「思い出した?」

「…すいません。ご迷惑をおかけしました。私帰ります」

ホテルのソファに並んで座って、あろうことか久遠主任に肩まで抱かれて。

いくらこの人が女に困ってないといえど、こんな状況じゃ何されるか分からない。

苦手な相手の前で酔い潰れるなんて、自分が心底情けない。

「えぇ?君が帰れないっていうから、ホテル入ったんだよ?」

「…代金は支払います」

「そういうことじゃないでしょ?」

「ご迷惑をおかけしたことは、また後日改めてお詫びを…」

「だから、さぁ」

優しい声色とは裏腹に、私の肩に回された主任の腕にグッと力が入る。

「住原さんだって、ホントはわかってるよ…ね?」

唇が、耳に触れる。喋ると息がかかって、思わず体が強張った。

「や、あ、あの私…」

「もしかして怖がってる?反応可愛いね、住原さん」

…この人、わざとやってる。唇が触れるたびに、耳が熱くなる。

こういう状況に免疫がないせいで、こんな男でもドキドキしてしまう自分が嫌だ。

「久遠主任、私もう本当に…」

「俺さ、住原さんのことどうしても気になるんだよね。だからさ、一回だけ。一回だけ、抱かせてくれない?」

「は、はぁ?一回だけって、何いって」

「もちろん、住原さんが一回で終わらせたくないって言うなら、俺は大歓迎だけど?」

「そういうことじゃありません!私達お付き合いすらしていないのに、こんなことできないっていってるんです!」

「それは告白?」

「だからそうじゃなくて…っ」

「でもごめんね?俺、特定の彼女は作らない主義なんだ。せっかく遊び放題なのに、一人に絞ったら人生損でしょ?」

「…」

コイツ…予想以上にクズだな。

頭が、スーッと冷えていくのを感じる。

「住原さんだって、嫌々いいながらここまでついてきたじゃん。俺、無理矢理する趣味はないからさぁ。だから、ね?一回だけ。そうしたらもう、話しかけないから」

「…わかりました」

自分でも驚くほど、冷たい声だった。社内で無駄に声をかけられるせいで、他の女性社員からは睨まれるし。

男性社員からは、久遠主任が会長の孫だから媚び売ってるっていわれるし。

この男のせいで、散々なのに。

「いいですよ。一回だけ、お相手します」

「…住原さん」

「その代わり」

私は立ち上がると、ソファに座る久遠主任に跨る。彼は驚いたように、目を見開いた。

「私の好きに、させてくれるなら」

そう口にしながら、彼のネクタイに指をかける。たちまち、久遠主任の瞳に欲情の色が浮かんだ。

「…マジ、たまんねぇ」

主任から漏れる吐息は、セクシーで。だけど私にはそんなこと、どうだってよかった。

男なんて所詮、みんな同じだ。

この人だってどうせ、自分になびかない女が物珍しいだけなんだから。

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