愛しの騎士様は満月の夜、獣になる (Page 2)
宴会場から何組かのカップルが喧騒を逃れてくる。
私たち2人はそれを避けるように、お城にあるセレス様の執務室に向かった。
「人が増えてきましたね…。私の部屋でお茶を淹れましょう」
執務室は広く、大きな本棚が置かれていて沢山の本があった。
兵法書だけではなく、政治に関することや近隣の国々の歴史書まで。
多彩な本が並んでいる。
「お忙しいから、お屋敷に戻る暇もないと父から」
「そこまで忙しいわけではないんですが…。隣にはベッドもあって眠ることもできるのでつい」
「寝室もあるんですね」
「そうです。デュミナス様のように、素敵な奥様や美しいお嬢様が居れば、帰るのも楽しいとは思うんですが…」
「美しいなんて…」
お世辞でも、セレス様に言われると嬉しい。
耳が熱くなるのを感じた。
「月明かりに髪が照らされて、まるで天使のように見えます」
「おばあ様がエルフだったから、私もプラチナブロンドなんです」
私の言葉に、セレス様が反応する。
「それでは、シエル様も長命なのでしょうか?」
「そうかもしれませんね…他のお嬢さんよりは成長が少しゆっくりだと言われています」
エルフは人間よりも長い時を生きる。
「私もライカンスロープの血が流れているんですよ」
「人狼…?」
「そうです。父がライカンスロープなんです。純血ではないので変化は一部ですが…満月の夜は文字通り獣に変身します」
「でも、今日は満月なのに変化がないですよね」
「ある程度抑制できる薬を飲んでいるんです。月の光を長く浴びているとどうしても変化しますが」
セレス様は窓を見て言った。
大きな月が、雲間から見える。
人間と異種族が手を取り合ったことで、人間界にもいろんな種族が暮らすようになった。
けれどもライカンスロープは珍しい。
「どんな変化があるんですか…?」
「見てみたいですか?」
「少しだけ、興味が」
「シエル様の望みなら」
そう言うとセレス様は大きく窓を開け放った。
雲が晴れていて、大きな満月が2人を照らした。
月光を浴びるセレス様は、幻想的で美しい。
思わず息を飲んだ。
やがてセレス様の身体が少し大きくなり、獣のような耳が伸びてきた。
「失礼して…尻尾を出しますね」
物陰に隠れたシエル様が出てくると、長い尻尾が揺れている。
体毛が濃くなり、ややワイルドな風貌に変わった。
「人狼ってもっと大きいイメージがありました…」
「私はハーフですからね。能力的にも、純血のライカンスロープほど力はないのです」
そう言いながらセレス様は遠い目をした。
純血種に対する羨望は、混血ならではの悩みかもしれない。
「私も…一緒です」
セレス様の手をそっと握って微笑む。
鳶色の瞳が赤く輝き、そして私に近づいて来た。
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