今夜、僕に時間をください~満月の下で~ (Page 2)

ふたりは、たどたどしい会話をしながら隣駅まで歩き、電車に乗った。

「この電車、初めて…。確か海のほうですよね?」

シートに座る華の前で、まだ顔の紅い豊は、荷物を持ったまま立って頷いた。

「華さん、初めて配達に行ったときとライブって、雰囲気が全然違いますね」

「変ですか?…」

メガネ越しに見る自分の姿。メンズのTシャツ、オーバーサイズのデニムと、ワンサイズ大きいスニーカー。

「…か、可愛いです」

「ぁンっ…」

豊は耳元に顔を近づけていうと、華は小さく喘ぎ声を出し、ふたりは顔を紅くして、目を逸らし違う方向に目を向けた。

華は、窓を流れていく風景を見ながら、胸を焦がさないように蓋をしていた気持ちが溢れていくのを感じた。

豊は、荷物を持ち換えたり、腰を大きく後ろに引いて前かがみの姿勢になり、大きくなったボトムを見せまいと必死だった。

ようやく停車した駅で、豊は華の腕を取って電車を降りて、どんどん歩いて行った。

華は初めて見る小さな町を見ていた。そんな華を豊は見つめていた。

「海の匂い…」

華は腕を広げ大きく深呼吸した。

カシャ。

「え?」

海の匂いを身体の中に満たしていく華の姿を、豊はリュックから出した一眼レフのカメラで撮った。

「いや、あの…これは…華さんのスマホにも送れますから…」

華は、豊のカメラを覗きこもうとすると、腕を上げて見せないようにしながら、バタつく華の身体から香水の香りが豊の鼻をくすぐった。

「華さん…あんまり、僕の気持ち…かき乱さないでくれませんか?」

耳まで紅くなった豊の表情は、街灯の明かりで、華の目にも入ってきた。

豊が先になって華の手を握って海へ向かい、砂浜で突然座り込むと、隣に座るように横を叩いた。

「華さん…」

華の身体に近付きながらメガネを丁寧な手つきで外し、豊はさっきよりも激しく唇を奪った。

絡ませてきた濃厚なキスに、豊への気持ちは溢れ出し、華も激しく舌を絡ませた。

「…華さん…そんな…」

華の身体を引き寄せて抱きしめると、豊はそのまま覆いかぶさりTシャツの上から胸を揉み始めた。

「っアぁん…」

「あぁーもぉ!」

華は豊を見上げると、月光で頭を抱えているのが見えた。

顔を上げた豊は、苦い表情で片目を閉じながら、華から目を背けた。

「私、何か悪いこと…」

身体を起こし豊の顔を覗き込むと、俯いた長い睫毛が震えていた。

「僕が勝手に想像してた華さんと…ギャップが…凄くツボなんです」

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