ボディーガードは本日も優秀で (Page 2)
「茜様。もうそろそろ着きます。私は駐車場に車を停めた後に、茜様の接待のお部屋の前で見張りをしておりますので、何かあればスマホの非常ボタンを」
「上田さん、ありがとう。中野はもう自宅に帰っているのよね?」
「はい、もう既に帰宅してお暇を頂いておりますので、ご心配なく」
「そう、よかった。では、何かあればいつものように緊急コールするわね」
上田にそう声をかけて、車から降りると、そこは大きなお屋敷のような建物で。
入り口に立っているボーイがすぐに私の姿を見ると駆け寄り、コートや鞄などの手荷物を受け取ると案内をしてくれた。
「これはこれは茜様。本日も麗しい。どうぞ、そちらへお座りください」
恰幅の良い、白髪混じりのゼット社の社長が、にこやかな笑みを浮かべて手招きをする。
「飯田様、本日はお招きいただきありがとうございます」
私も愛想よく笑顔を作ると、社長に頭を下げて席へと座った。
「今日は、茜様に折り入ってお願いがありましてね…。お酒が進んだ頃合いにでも、お話しますよ」
額に脂汗を滲ませながら、飯田は何か腹黒いことでも考えているといった笑顔で笑った。
この手の話は、大体良い話ではないことは、過去の経験上わかっている。
のらりくらりと話をかわしながら、そして相手を不快にさせないように転がしながら、私は過ごした。
*****
時刻は22時。
もうだいぶ良い時間だ。
「茜様。お若い年齢で、しかも女性で…。気苦労も多いでしょうに。どうなんですか?実際のところ、夜の接待などもされているんですかね」
冗談ですよ、と付け加えながら、飯田は酒をぐいぐいと飲み干してそんなことを言い始めた。
「とんでもございません、ふふふ」
いつも言われ慣れていること。
私は、作り笑顔で笑った。
「全く、茜様はノリが悪い。どうです?良い話ももっとできますので、この後ぜひ2人でどこかにぬけるというのは?」
飯田は下品な顔でそう言うと、ショットグラスに入った透明の酒を差し出してきた。
飲め、と言うことだろうか。
私は、笑顔でそれを飲み干すと、立ち上がってスカートの皺を伸ばす。
「飯田様。もう良いお時間ですし、私はお手洗いに行って参りますので、帰りのタクシーでも呼びましょう」
「上田、ちょっと私はお手洗いに行くから、車をまわしてくれる?」
部屋の前で待機している上田にそう声をかけると、彼は頷いてすぐにスマホを取り出して、電話をかけた。
お手洗いの流し場で鏡に映る自分の顔は、真っ赤で。
どうにも、あのショットが効いたのだろうか。
先ほどの飯田の言葉を思い出しては身震いする。
社長の娘で楽に出世して。
女だから、可愛がられて。
どうせ、籍だけの無能に違いない。
そんな言葉を浴びせられながら、死に物狂いで駆け抜けてきた。
そんな時にいつも自分のそばで1番自分を良く見てくれたのは、中野だ。
頭がクラクラして、体が熱い。
「ちょっと、これはまずいかもしれない…」
急に心臓の鼓動が早くなるのを感じ、私はスマホを取り出す。
視界に見える画面は揺らいでいて、思わず膝からその場に崩れ落ちた。
「え…、ど、どうしよう…。中野…」
咄嗟に押したのは、中野へのコール。
私はそのまま意識を手放した。
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