義兄への想い

・作

義理の兄への恋心を隠し続けていた。両親の再婚で兄妹になったが、両親の死後もなお一緒に暮らしている。諦めなければいけないと思いつつも、ときめく心を止めることはできないでいた。ある晩、いつものように兄は酒に酔い帰宅した。仕方なく介抱しようとしたのだが、いつのまにか兄に抱きしめられていた……。

「おーう、ただいまぁ、ハハハ、お兄様のお帰りだぞ」

時計の針が十二時を指す頃、ぐでんぐでんに酔いつぶれた兄の宏昌が帰宅した。いつもパリッとしたスーツが着崩れて、真っ赤な顔をしている。足元がおぼつかないほど深酒してしまったようだ。花金とはいえ、ここまでなのは珍しい。

「何やってんのよ!……あぁ、もう、酒くさっ!」

私は兄に抱えるとリビングへと運び、ソファーへと放り投げた。兄は気持ちがよさそうにソファーに頬ずりすると、そのまま寝息を立てて寝てしまった。私はそんな姿を見て溜息を漏らしながら台所へ向かった。

東京の小さなマンションに私たち兄妹は一緒に住んでいる。東京での生活はどうしてもお金がかかるが、亡き両親が残してくれたこのマンションのおかげでなんとか生活できている。

まだ学生の私の稼ぐ額はたかが知れている。だから、どんなにひどく酔っていても、仕事がうまくいかず機嫌が悪くても……私は兄に対して感謝しかない。仕事が大変でも辛そうな顔を見せない兄は、本当に強い。

グラスのコップに水を入れると兄の元へと運ぶ。赤子のように横になり、体を丸める兄は普段よりも小さく見えた。そっと前髪に触れて、その精悍な横顔を見つめる。

私と兄は、他人だ。血は繋がっていない。親の再婚で兄妹になったのは十年前……まだ兄も学生だった。そして、あの頃から私は兄に特別な感情を抱いている。兄ではなく……一人の男として。

「……兄さん、起きて。水飲んでおいた方がいいよ」

兄の肩を揺すると、ぼんやりとした様子でこちらを見上げた。いつも凛とした黒い瞳が涙に濡れていた。焦点も合わないその表情に、思わず胸がときめいた。男の色香を感じてしまう。

兄が怠そうに仰向けになると、突然目の前が真っ白になった。一瞬のことだった。兄のシャツが目の前にあり、しっかりと抱き留められていた。慣れているはずの兄の香水の香りが鼻腔をくすぐり、頭に血が集まる。

「え……、ちょ、ちょっと!」

「うーん……トモ……」

頭上から兄の甘えるような声が聞こえて、抵抗する力を失う。甘く優しい声に、大人しく抱かれたままでいることにした。兄はこうして酔いつぶれると、高頻度で私に甘えてくる。抱きしめ、まるで宝物のように愛しむ声色で名前を呼ばれる。諦めなければいけない……許されない関係だと思っていても、この瞬間を心待ちにしてしまう自分がいた。

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