官能表現を手に入れたいある漫画家の話

・作

最近なかなか連載ができない少女漫画家の宮地ゆかり。ある日、web媒体の漫画雑誌へ短編の掲載の話をもらうことができた。しかし企画内容は”官能表現を含む成人向け”。苦労していると、担当編集者が自宅までやってきて、官能的な感触をつかむためのイメージプレイを始めることに。

私、宮地ゆかりは幼い頃からの憧れだった少女漫画家になることができてから数年ほど経過していた。
しかし競争の激しいこの業界、最近はどこかの漫画誌に連載することもなかなかできず苦戦していた。

そんな折、かつて短編を何度か掲載してもらったことのあった出版社が新しくweb媒体の雑誌を作るということで、私にも声がかかった。まずは短編を、ということではあったけれど。
これはチャンスとばかりに私は張り切って面談に望んだ。

「それではこちらの企画書を読んでいただいて何か質問があれば…」

面談室にて、そう言って渡された企画書をめくっていく。
私の向かい側に座るのは、かつて担当してもらったこともあるえびす顔の男性編集者と、その隣に見たことのないスーツ姿の男性だ。

『官能的なエッセンスを含む娯楽漫画』

といううたい文句で、似たコンセプトの漫画誌の例が載っている。やはりというかなんというか、肌色成分多めである。

「これって成人向けですよね…。私は描いたことがないのですが…」

受けたい気持ちはあるが、経験がない。私は上目使いにえびす顔の編集者に聞いてみる。

すると、えびす顔編集者は隣に座るスーツ姿の男性に目配せした。

「初めまして、高岡と申します。宮地さんの過去の作品を拝見いたしましたが、”少女向けの体を崩さない程度の表現”が私としては大変評価できました」

そう言って、高岡と名乗る男性は名刺を渡してきた。高岡 稔と書いてある。

「あるにはあります…仰るとおり、15歳以上向け程度の表現にはなります。それで良ければ…」

「そこはもう少し頑張ってほしいところですね」

高岡さんが笑った。改めて彼を見ると、グレーのスーツが似合うなかなかのイケメンだ。趣味の良いコロンの香りがうっすら漂ってくる。言ってしまっては悪いが、この中小出版社には似つかわしくないような。

「ああ、彼、親会社からの出向者なんだよ。今回は宮地さんの担当にもなるからね」

私の疑問は顔に出ていたのか、えびす顔編集者の方が答えた。
なるほど、親会社は割と有名な出版社だ。
確かに最近連載どころか読み切りもなかなか掲載できない私にとってはありがたい話に違いない。

(担当ってことは、この人に真っ先に作品を見せるのか…)

背に腹は代えられない。
私はドギマギしながら、作品作りに励むことになったのだった。

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