元教え子の腕の中で蕩ける私…

・作

冴木ハルカは中学校の音楽教師。ある日、元教え子の伊藤タクミに再会する。七年ぶりに会ったタクミはすっかり大人の男性になっていた。彼はハルカを好きだったと告白をしてきた。戸惑うハルカに、彼は二人きりになりたいと誘いをかけてきて…!

「セン…セイ?先生!冴木先生!!」

聞きなれない声に振り向くと、爽やかな青年が立っていた。
私の顔を見るなり、ぱあっと明るい笑顔になった。

「やっぱりそうだ!冴木先生ですよね?」

黙って頷く私に、たたみかけるように言う。

「僕、伊藤タクミです。S中で教わっていた」

私は中学校で音楽の教師をしている。
今はN中勤務だが、新任から三年間、確かにS中で教えていた。

「ええと…いつ頃かしら?」

記憶の引き出しから、何かをそうっとたぐり寄せるように尋ねる。

「僕は3年C組で…確か…」

「あっ…!」

彼の言葉が終わらないうちに、私の記憶はどこかにたどり着いた。

「伊藤タクミくん!思い出したわ!合唱コンクールでパートリーダーやってくれたのよね!」

「え…嬉しい!思い出してくれたんですか?」

彼は照れくさそうに笑った。

大学を卒業したばかりの新任で、S中での一年目は目まぐるしく過ぎた。

それでも、3年C組での授業は印象に残っている。
生徒はみんな真面目で、特に合唱コンクールに向けての熱意は、他のクラスを圧倒していた。
猛練習の甲斐あって、C組は優勝して私もとても嬉しかった。

伊藤くんはひょろっとしていて、あまり体格は大きくなかったが、キレイなテノールの声の持ち主だった。

…それが今ではすっかり大人の男だ。
なんだか眩しすぎるくらいだ。

*****

私たちは、目の前のカフェに入った。

「嬉しいなあ…こんなところで冴木先生に会えるなんて…」

伊藤くんは、屈託のない笑顔で言う。

「最初は全然わからなかったわ。こんなに大きくなっちゃって…」

「当たり前ですよ~、あれから七年も経ってるんですから…」

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