ちゃんと「待て」をしましょうね?
学生時代のサークルの後輩と3ヶ月前に付き合い出したモモ。しかし彼氏であるアオイは、恋人同士のふれあいをしても、なかなか最後のセックスまではしてくれない。不安にかられるモモはつい男友達に飲みながら相談していると、怒ったアオイにホテルに連れ込まれる。いつも丁寧で紳士的なアオイは人が変わったように、モモを手荒に抱く。
腰を抱き寄せられ、モモはアオイの首に腕をまわす。抱き寄せられた反動で唇を深く重ね、彼がゆるやかにいれてきた舌を、自身の舌で受け止める。
(ああ、やっぱりキスって気持ちいいなー)
モモは彼の身体に、自分の身体を押し付けた。贅肉がない彼のしまった身体は温かく、服越しであってもくっつけていて気持ちがいい。
今いるのは、ワンルームの彼の部屋。ここに来るのは2回目。終電はあと1時間後。今は部屋で二人きり。
(今日だよね…?今日は抱いてくれるよね?)
モモは内心、ドキドキしていた。下着は上下おそろいは当然のことながら、化粧水と乳液、実は替えの下着と明日の服も大きめのカバンに入っている。今日アオイと家デートを予定していたから、準備はバッチリだ。
「ぁ…先輩」
アオイがキスの合間に、熱い息を吐く。ん、とモモは甘く声を零す。目の前にいるアオイは、学生時代のサークルの後輩だ。カーペットの上で2人は正座になって、視線を交わす。
長身痩躯の彼。社会人になっても毎朝ジョギングをしているからか、ほっそりとしている。整った顔立ちに、左目の下にほくろが1つあるのが何となく色香が漂う。
「もう…」
「うん、アオイくん。あたしならいいから…」
モモは恥ずかしげに言葉を詰まらせる。27歳のモモは処女ではないが、恋人との初めてのセックスにはいつもドキドキする。男勝りだとかボーイッシュと言われてきたことも、彼が後輩だということも相まって、余計にモモは羞恥心を抱く。
がさつで男みたいな自分が、彼のような美形に抱かれるなんて夢のようだ。
「…いや、よくないですよ。もう終電出ちゃいますよ?」
「へっ?」
「送ります。もう少し早く僕も気づけばよかったですね。気がまわらなくてすみません。先輩の荷物持ちますね!」
スッとアオイは立ち上がり、モモの後ろに置いてあったスポーツブランドのリュックを手に取った。お泊りグッズが入っているモモの荷物だ。モモはついぽかんとしてしまうが、すたすたと玄関に向かっていくアオイが急き立てる。
「終電ぎりぎりになっちゃいけませんね。さぁ先輩、早く行きましょ?」
え、ええええ?
内心思っていたことだが、さすがにモモは言えなかった。
この展開は、実は初めてではない。
(アオイくんに告白されたバーでも、1回目のデートで行った場所でも、ホテル近かったし、えっちぃキスたくさんしたじゃん!)
アオイとは社会人になってから久しぶりのサークルの飲み会で再会し、その後2人だけでバーに行き、話が盛り上がってサッカーの試合を見に行ったりして仲が深まった。まさか美形の彼が、自分に告白してくれるなんて夢にも思わなかったが、正直モモは幸せで仕方がない。
学生時代も、彼のことは「ちょっといいな」と思っていたのだ。
(そんなアオイくんがあたしに告白してくれて、付き合えて、キスしてくれて嬉しいけど…!どうして…!)
「先輩、荷物持ちますからね」
にっこりとアオイは笑っている。イケメンだなぁと思う一方で、モモはわかりやすく落胆した。
どうして彼は、モモを抱いてくれないのだろう。
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