教育実習の再会、ふたりきりの資料室
教育実習生の藤崎香苗は、母校の高校で憧れの元担任の桐島龍一と再会する。募る思いが抑えきれず、放課後、資料室で二人きりになると香苗は龍一に告白をしてしまう。最初はからかうなと苦笑いしていた龍一だったが、香苗の本気の気持ちに自分を抑えきれなくなって……。
「お疲れ様です、桐島先生」
「はい、お疲れ様、藤崎さん」
桐島先生と再会するのは数年ぶりだ。
母校に教育実習生として赴くことが決まって、一番楽しみだったのは先生と再会することだった。
私は桐島先生が好きだ。ずっと昔から。
「あ、この資料、資料室に返すやつですか?私返しておきますよ」
「そんな悪いよ、俺がやっとく」
「ふたりで持っていきましょう。男性でもひとりじゃ大変そうですよ、これ」
「そう?悪いな」
やった。ふたりきりになる口実ができた。
私は心の中でガッツポーズをする。
資料を持って、廊下を並んで歩く。
廊下の窓から、部活動に勤しんでいる後輩たちの姿が見える。
「藤崎さんは陸上部だったよな」
「覚えていてくれたんですか?」
「うん、よくここから走っているの見てたよ」
「……嬉しい」
私がどれだけ嬉しいか、桐島先生には伝わっていないだろう。
資料室には桐島先生が先に入って、私はドアを閉めるとき、ついでにこっそり鍵を閉めた。
「よし、片付け終了」
「…あの、桐島先生」
「ん、どうした」
「お話が…あって」
「…職員室では言いにくい話か?」
「はい…」
「そうか」
桐島先生は机の下から椅子を二脚、引き出して、座り込んだ。
「聞くよ」
優しい笑顔に胸が高鳴る。
「あ、あの、私…私、先生のことが好きです」
ストレートに言ったのは、他にどう言っていいかわからなかったからだ。
桐島先生は目を見開いた。
「…藤崎さん」
「好き、なんです。ずっと、今も!」
「…大人をからかっちゃいけないよ」
ああ、この人にとって私はまだ生徒なんだ。
「もう、私、ハタチになりました。もう大人です!」
「藤崎さん…」
「先生、好き…」
じっとその目を見つめていると、その目の中に迷いが見えた。
「俺は…」
桐島先生が迷っている。
私は思いきってその胸に抱きついた。
「先生!」
「…藤崎さん」
その声は低く、何かを含んでいた。
大きな手が私の背をさする。
私は桐島先生の顔を見上げた。
その目はまだ揺らいでいた。
私はその頬に手を添えた。
桐島先生が目を閉じて、顔を近付けてくる。
私も目を閉じた。
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