ひ弱な彼が野獣に変わる夜 (Page 3)

「採用、おめでとう!」

正直、拓実からお祝いの誘いが来た時、悪い気は全然しなかった。

むしろ心のどこかで、連絡を待っていた自分に驚いているくらいだ。

「その…なんだか…変わったよね…拓実……」

赤ワインを一気に飲み干し、意識しているのを悟られないようにわざとそっけなく話した。

「美紀ちゃんは、20年前と全然変わんないね…僕は、すぐに気付いたよ」

「悪かったわね、成長してなくて!」

「そうじゃなくて、6歳の時と同じで綺麗でかっこいいってことだよ」

「なっ……別に、弱虫たっ君に褒められても、嬉しかないわよ!!」

「懐かしいね…弱虫たっ君だったもんね、僕…」

そう…小さかったあの頃、拓実は病弱で、日に焼けてない真っ白な肌が綺麗で、いつも女みたいだ!って、男子にいじめられていたっけ…。

それを、同じ歳の子と比べて身体の大きかった私は、拓実を庇っていじめっ子たちを蹴散らしていたのだ。

その後、拓実は手術を受けるために遠方へ引っ越し、私はと言えば、成長も中学で止まり結局、156cmっていうチビに分類されてしまったのだけど。

あの頃は、拓実を守らなきゃって思ってたのに…拓実に助けられるなんて思ってもみなかった。

懐かしい思い出に浸っていると、急に拓実に手を握られ、現実に意識を戻された。

そしてそのまま、右手の甲にキスが降ってきたのだ。

一気に体温が上がっていくのを感じた。

「なっ、なに…」

「美紀ちゃんに、ずっと会いたかった。まさか本当に会えるなんて思ってなくて…僕、このまま美紀ちゃんを離したくない」

「急にどうしちゃったのよ…」

「小さい時から、ずっと好きだった。美紀ちゃんが、大好き。手術も成功して、身体も丈夫になったんだよ。ダメかな…?」

捨てられた子犬のような、すがりつく瞳で見つめられたら、冷たく断れないじゃない…。

「もう…仕方ないなぁ」

私の返事を聞いた途端、拓実は満面の笑みを浮かべて、尻尾をパタパタと振って喜ぶ子犬のようだった──。

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