もう一度会いたい

・作

突然交際中の彼から別れを告げられた。仕事帰りに彼のアパートへと向かい、部屋に置いたままの私物を引き取ればもう会うこともない。涙を堪えつつ彼のアパートへ向かったのだが、どういうわけか気が付くとベッドの上で組み敷かれていた。いつも穏やかな彼の瞳が欲情に染まっているのを見て、私は何も言えなくなった……。

駅から徒歩五分ほど歩いたら、入り組んだ細い路地沿いに小さなアパートが見えた。何度も通った道なのに今日は視界に入るすべてが愛おしく感じる。このアパートも見納めだからだろうか、ひどく感傷的な気分になる。

数日前、突然恋人である直人に振られてしまった。前触れもなく、唐突にたった一言……「別れよう」と言われた。

どうして?なんで?理由は?私の何がだめだったの?と、どれだけ問いただしても、何も答えてくれなかった。視線すら合わせてもくれない直人に、恋の終わりを感じた。いつかは直人と結婚すると思っていた。穏やかな彼の側にいると自然と笑みがこぼれた。こんな形で終わりを迎えるだなんて夢にも思わなかった。

彼の部屋の前に立ち、深呼吸を繰り返した。インターホンを鳴らそうとするが、緊張して押せなかった。今日は彼に会う最後の日になる……私物を回収したらそれでおしまいだ。インターホンを押すと部屋のドアはすぐに開かれた。ワイシャツ姿の彼はこの数日でやつれたように見えた。私が何も言えずに佇んでいると、彼は私の腕を掴み、玄関へと引き入れた。久しぶりに感じる直人の体温や香水の香りに胸がときめいた。

「あ、あの……荷物を、取りに……」

「……まとめてないんだ。悪いけど、自分でしてくれる?」

直人の抑揚のない言葉に胸の高鳴りは消え、激しく突き刺さるような痛みがした。こみ上げる涙を堪えつつ部屋の中に入ると、衣服や小物を袋に詰める。必死に耐えていたが、二人の思い出が詰まった小物たちを見ると涙がこぼれた。

「なんで泣くの?」

「……なんでもない」

「泣きたいのは、俺の方なのに……」

あっという間に体が浮いたと思ったらベッドへ押し倒されていた。突然視界が変わり、直人に抱きしめられていた。慌てて体を起こそうとすると激しく口づけられた。結んだ唇をこじ開けられ抵抗する間も与えられない。荒々しい息遣いと、直人の熱くたぎった舌が口内を蹂躙する。直人の唾液が注がれて、まるで麻薬のように脳が快楽に浸された。

なぜキスをされているのか、さっきの言葉の意味は何なのか……さまざまな思いが頭をよぎったが、直人が冷静さを失い、自分をただ求めている姿にどうでもよくなった。利用されていてもいい、性欲を満たすだけの存在でもいい……自分も直人を欲しているのは事実なのだから。

直人は荒々しく私のシャツをめくりあげると、ブラジャー越しに、激しく揉みこむように胸を愛撫をする。いつもとは違う激しい愛撫に目尻から涙が出た。直人の熱い吐息がへそや横腹をなぞる。直人の鼻梁の感触に思わず上擦った声が漏れた。舌先でなぞり、甘噛みをし、キスの足跡を残していく。こんなにも激しく求める直人を見るのは初めてだ。背筋がゾクゾクして、鳥肌が立った。ここにいるのは、ただの男と女だ。

「アンッ……やだ、ん……」

「……っ、クソッ!」

直人は私の顔を見て一瞬瞳を泳がせた。舌打ちをすると強引にショーツの中へと手を滑らせた。そこはすでにぬかるみ、十分すぎるほど潤っていた。感じすぎている自分が恥ずかしくて顔を逸らせたが、無理やり顔を上げられ激しくキスをされる。舌が絡まり合い、歯列をなぞられる。呼吸することすら許されないような激しい口付けに眩暈がした。

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