彼女をキュンキュンさせるために練習台を引き受けたけど、彼に密かに片思いしてる私は複雑です。
「もっとキュンキュンさせてくれたら、別れるのやめる」彼女からの無茶ぶりに私の幼馴染の奏多は憔悴しきっていた。見かねた私が一緒にキュンキュンするシチュエーションを考えようと協力することに。そのうち気持ちが高まってしまって…
「俺…もうだめかもしれん」
珍しく気落ちした奏多が部屋へ訪ねてきた。
大好きな彼女に「別れる」と言われたらしい。
「えっと…別れてきたってこと?」
奏多はうつむいていた顔を上げ、私に詰め寄ってきた。
「それがさ、キュンキュンさせてくれたら別れるのやめるって言われて…キュンキュンってなに?教えてくれ!」
奏多は思えば中学、高校、大学と結構モテてきたはずなのに、ここへきて女の子をキュンキュンさせるような技を持ち合わせていないなんて…
私は思わずため息をつき、奏多の肩をポンポンと叩いた。
「奏多にも不得意なことがあったのか…そっか、そっか」
私と奏多は幼馴染だけど、彼女ができてからはこんな風に訪ねて来ることはなかった。
私は奏多を部屋にあげ、飲み物をならべながら「ふんふん」と話をきく。
「奏多、振られても彼女のことまだ好きなんだね…」
「うーん、わかんねぇ、ただの執着心かも…」
「ふたりで考えてみる?そしたら何かいい案が浮かぶかも」
こっちを向いた奏多の目に私が映っていた。
それくらい近い距離で見つめられて、私は不覚にもドキドキしてしまう。
奏多の頬に手を当てた。
「彼女とのこと教えて…どんなふうにキスした、とか」
奏多がほかの女のことで落ち込んだ顔なんか見たくない。
「希乃(のの)、もう酔ってる?」
机の上にはカラになった缶が3本ほどある。
たしか2本が私で、1本が奏多。
「まさか、2本くらいじゃ酔わないよ。それより、ちゃんと優しくしてあげた?奏多のことだから、キスもぶっきらぼうでしょ、きっと(笑)」
私は奏多の耳をわざと引っ張って、自分からキスしそうになるのを制御した。
私は一年前、奏多が好きだった。
奏多が年上の先輩と付き合うことになったと聞いた時、キッパリ諦めたつもりだったのに、また気持ちが戻って来てしまいそうなのは、こうして訪ねてきた奏多のせいだ。
「彼女をキュンキュンさせる方法なら一緒に考えてあげる。だから、そんな弱った顔すんのやめて」
耳を引っ張られていたがっている奏多のおでこをさらに小突いた。
なのに奏多は、パァッと晴れ上がったような笑顔を見せ私の手を取る。
「希乃!ありがとう!」
キュン…
だめじゃん、キュンとしちゃ!心の中で自分に言い聞かせる。
私はわざとらしく奏多の手を振り払った。
「ね、もしかして」
「何?」
「彼女とのイチャイチャの延長線でこのミッションもらったってことはない?」
それだったら聞いてやんない。
「違うと、思う。もっとキュンキュンしたいってのは、いつも言われてたことだし。でも俺、そういうの苦手でさ…」
「じゃあ、別れと引き換えにしてまで奏多にやってほしいのかも」
「そうとは限らない。彼女は、最近サークルの後輩に告られたらしいし、俺にはできないとわかってて、言ったのかも」
「…そっか…じゃあ、私も考える。奏多にもできそうな彼女をキュンとさせる方法!」
こうして私たちは、ネット検索で上がってきた順に、キュンキュンさせるシチュエーションを試すことにしたのだった。
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